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2006年09月19日

北八ッ彷徨 - 山口 耀久


高かったけど、買ってよかった愛おしい本。

「北八ッ」とは北八ヶ岳の山域のことで、一般的には天狗岳よりも東に広がる八ヶ岳山脈及びそれを取り囲む豊かな樹林帯を指す。
赤岳や阿弥陀岳、それに横岳を擁する南八ヶ岳山域と比べてなだらかな山が多く、深い森と湖が多くあるのが特徴だ。

著者はこの山域を愛し、麦草峠を通る道路が開通する前の時代の北八ッの楽しかった思い出をこの本に綴っている。
詩情に溢れた素晴らしい文章で豊かな自然が描写されていて、読んでいてたまらなく山の静けさが恋しくなってくるのだ。

今では登山路が縦横に広がっている北八ッだけれど、雨池のほとりに天幕を張って筏を浮かべて歌を歌って・・・なんていう時代があったのだなぁ、と新鮮な気持ちで読むことができた。本の最後になって出てくる著者の闘病生活の記述もまた興味深い。

2006年09月17日

南の海からきた丹沢 - 神奈川県立博物館:編


前々から地学に興味を抱いていたものの、いつも入門編でくじけていた自分にとって、ようやくプレートテクトニクスがどんなものなのかを教えてくれた画期的な本。
やはり、人間身近な教材がないと学習できないものだと思う。

プレートという言い方は、60年代以降に出てきたプレート理論という学説に倣った言い方で、物理学的な分類では地球の各層は地殻、リソスフェア、アセノスフェア、メソスフェア、そして核から構成されるらしい。「プレート」とは地殻とリソスフェアを含み、柔らかなアセノスフェアの上を大小約10枚のプレートが動いているのが地球の姿なのだそうだ。

ウェゲナーの大陸移動説は有名だけれど、現在の地学では既に地磁気等に影響も既に研究され、地球にはもともとひとつの大きな大陸(ゴンドワナ大陸)があった、ということになっているらしい。
各プレートがぶつかり合う境界では、海同士であれば重い方が下に潜り、海と陸であれば海が下に潜り、陸同士だった場合には衝突が発生する。衝突で有名なのはインド大陸によるヒマラヤ山脈の造成だが、実は極めて身近な伊豆半島も日本列島に衝突した「島」だったのだそうだ。

丹沢のあの複雑な地形がどうやってできたのか、という身近な興味から、日本という島の極めて特殊な島であることがよく分かるよい本だった。

順列都市・下 - グレッグ イーガン


一日中暇していたのでサクッと読めた。

オリジナルでありながらコピーとして生きる気持ちを知ってしまったポール・ダラムは、世界中の富を握る大金持ちのコピー達から資金を集めて全く新しい方法によって永遠に生きる術を実践しようとする。
その新しい環境における全く新しい宇宙体系を創り出したプログラマー・マリア、そしてプロセッシングパワーが足りずに極めて限られた時間をコピーとして生きている故にダラムの計画した都市に密入国した二人組・・・。

人間の意識だけが仮想世界で生きることができたら(魂の不滅)どうなるのだろうか、という物語は数あれど、ここまで大胆に、ここまでリアリスティックに描かれた物語は他にないだろう。
最後のオチといい何といい、普段読まないSFにもこんなに面白い物語があるのか、と驚かされた。

2006年09月12日

ハリネズミと狐 - バーリン


古本屋でタイトルが気になって買った本。

ロシア生まれ、イギリス育ちのユダヤ人哲学者バーリンによるトルストイ論。
人を何でも知っている狐とでかいことをひとつだけ知っているハリネズミとの二種類に分類するところからはじめているのでこの題名らしい。
一通り読んでみたけれど、何がなんだかさっぱり分からなかったのでまたの機会に読むことにしよう・・・。

2006年09月11日

サヨナラだけが人生だ - 今村昌平編


絶版で手に入らなかったので、最後の手段とヤフオクでゲットした。

分量が多い上に内容も非常に濃く、これを越える川島雄三本はよほどのことがないと出てこないのではないか、と思う。
彼に関係した人たちによる本当に沢山の文章とコラム、それに藤本義一氏が監督との交流を書いた「生き急ぎの記」と監督本人による「自作を語る」、さらに幕末太陽傳の脚本が含まれている。

これだけ沢山の人たちが語っても川島監督が実際にどういった人だったのか、ということがどうしても掴めない。沢山の矛盾を抱えながら、楽しみながら、苦しみながら生きた人だったのだろう。
幕末太陽傳の脚本にはそんな彼の才能がぎっしり詰まっていた。

2006年09月08日

ビッグ・ピクチャー―ハリウッドを動かす金と権力の新論理 - エドワード・J. エプスタイン


忙しいときに読む本ではなかったが、図書館で予約の順番が回ってきたので仕方がなく読んだ。

「ハリウッド」というビジネスの形がその後の技術や個人の道楽、それに政治的な力によってその姿を際限なく変えてきた姿がとてもうまく描かれた本。

はじめの方の、貧乏な移民ユダヤ人達が持ち合わせた才覚でハリウッドでの映画ビジネスを切り開いていく話が一番面白かった。「映像」という新しく生まれた技術を娯楽のフォーマットとして定着させ、それをありとあらゆる方法を使ってオイシイビジネスとして育て上げてきた初代のモーグル達の精神が今もなおハリウッドという場所に宿っているのだろう。

子ども達を熱狂させたディズニーの奇跡や、技術とコンテンツがふたつの車輪であることを確信していたソニーの盛田さん、そして今のハリウッドをハリウッドたらしめることになった数多くの人たちの活躍・暗躍はとてもエキサイティングなギャンブルだったのだなぁ、と思った。

2006年09月06日

順列都市・上 - グレッグ イーガン


普段、SFは滅多に読まないのだけれど、何の因果か図書館で借りて読んでみたら面白かった。

一人の人間の思考・行動パターンをシミュレーションすることができるようになってしまったらどうなるだろう?という物語。
ちょっと時間と場所が交錯するのは混乱するし、こうした込み入った手法を取るあたりが現代風のSFであまり好きには慣れないのだけれど、主題にしているテーマがあまりに魅力的なのだ。