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2006年10月28日

「世間」論序説 - 阿部謹也


中世の歴史家、阿部謹也さんによる「世間」論をまとめた本。

ヨーロッパで近代が成立していく過程で、現在の日本に根強く存在する「個人」の成立を許さない「世間」と同じような仕組みが解体されていったと思われる。
この本では、日本の「世間」を紹介するのと同時に、その解体がいかにして発生したのかを紐解こうとしている。

中世における「神判」や「タブー」、それに「性生活」や「恋愛の理想形」など、色々と興味深い事例が挙げられている。多くの内容をいっぺんに紹介しすぎている感が否めないし、この本だけを読んでヨーロッパでの「個人」の成立が分かるわけでもないので少し中途半端な気がしないこともない。だが、筆者の興味深い著作をちょこちょこと読むことができる、という意味では十分に価値のある本だ。

結局の所、ヨーロッパで個人が生まれたのは、都市化とキリスト教の広がりによる単一的な社会思想の伝達、そして告解等のシステムによる「個」の客観的な認識等、色々な条件が積み重なった末の出来事のように思われた。

2006年10月16日

ヒトの変異 - アルマン・マリー ルロワ


「ヒトはみなミュータントである」というのがこの本のメッセージだ。

重度の遺伝的障害(または変異)をもって生まれてきた(または死産した)ヒトを多くとりあげ、ときにはグロテスクな写真や絵も使いながら、本当に小さな遺伝子の組み合わせが信じられないような結果をもたらすことを紹介している。

高齢になってから発生する重度の遺伝子的欠陥は子孫にも伝えられる、という点も面白い。高齢になってから発症する病気の大半の多くは遺伝的欠陥であるとするならば、もし超高齢まで生きた人の子どもをかけあわせていくことができれば超超高齢まで生きる家族を作ることができるかも・・・とか、「美」とはつまるところ遺伝私的欠陥の少なさだから健康さに人は惹かれる・・・とか、やはり遺伝子は業が深い。

著者の名前が「マリー」だったのと、こういった内容を書きそうなのはフランス人かなぁ、と思っていたのとで勝手に「著者はフランス人の女性だ!」と勘違いしていたのだけれど、イギリス人男性であるということでびっくりした。

2006年10月09日

草枕 - 夏目漱石


とても気に入った本。

漱石らしいなめらかな文体で、すこし斜に構えた視点から繰り出される画工の物語。
何よりも書き出しが素晴らしい。