« 2007年12月 | メイン | 2008年02月 »

2008年01月29日

孔子伝 - 白川静


Title: 孔子伝 (中公文庫BIBLIO)
Author: 白川 静
Price: ¥ 940
Publisher: 中央公論新社
Published Date:

内容の詰まった孔子伝。

一言で言うと、孔子の思想がいかにして生まれたのか、ということについて書かれた本なのだけれど、論語に限らず中国の歴史、人物、思想、漢字についての膨大な知識が詰め込まれているので、じっくりと読み進めていたら3週間もかかってしまった・・・。

論語は一通り読んだし、孔子という人についても自分なりに勉強はしていたつもりだったのだけれど、孔子が生きて活動した時代背景や、彼以外の古代中国の思想家についての知識が圧倒的に足りていなくて、なかなか刺激的な読書になった。

思うに、宗教家や思想家と呼ばれる人が様々な議論を通して辿り着くのは、大抵の場合において「善」(イデア)のようなものがいかにしてあるべきか、そしてその根拠は・・・というポイントだ。孔子の場合、周公が行っていたとされる政(まつりごと)をそのような位置に想定することで、彼の「あるべき姿」を規定したのだと思う。キリスト教の場合では、「神」という圧倒的存在が全ての善悪、価値観、物事の根拠であることを想定していて、その上でキリストという実在を1枚持ってくることによって分かりやすさを演出したんじゃないかと思う(こういう適当なことを書くと、怒られそうだけど・・・)。

孔子の時代の混沌とした政治的・文化的状況と、様々な技術や文化の積み重ねによって混迷の度合いを深めている現代とでは、全ての条件が異なっているように見える。けれど、人間そのものはほとんど進化していないわけだし、人のあり方、社会のあり方について考え、説き続けた孔子の言葉は、今の時代にあってもその価値を全く失わないのだと感じた。

2008年01月18日

老妓抄 - 岡本かの子


Title: 老妓抄 (新潮文庫)
Author: 岡本 かの子
Price: ¥ 460
Publisher: 新潮社
Published Date:

岡本太郎のお母さんによる小説。
青空文庫でも読める

大正~昭和にかけての多くの小説と共通した美しい文体によって、当時の風俗を上手に浮かび上がらせている。物語の軸にいる老妓の人となりがとても素敵で、この人に振り回される形で登場する若い男の姿もまた面白い。

2008年01月11日

昭和のロケット屋さん - 林紀幸, 垣見恒男


Title: 昭和のロケット屋さん―ロケットまつり@ロフトプラスワン (Talking Loftシリーズ)
Author: 林 紀幸, 垣見 恒男, 松浦 晋也, 笹本 祐一, あさり よしとお
Price: ¥ 1,890
Publisher: エクスナレッジ
Published Date:

たくさんの「ぶっちゃけ話」が詰まったロケット話集。

「ほんとにそんなこと話しちゃっていいんですか」という話がてんこ盛りで、宇宙開発やロケットに興味ある人のみならず、日々現実と闘っているエンジニアにとってもためにもおすすめできるよい面白い本だと思う。

やっぱり現場は強いなぁ~、という実感とともに、こういう現場が減りつつある今の時代に寂しさを感じた。

2008年01月10日

童話の書き方 - 寺村輝夫


Title: 童話の書き方 (講談社現代新書 (661))
Author: 寺村 輝夫
Price: ¥ 663
Publisher: 講談社
Published Date:

題名どおり、大人が童話を書くときに陥りがちな罠を回避しながら「面白い」童話を書く方法を教えてくれる本。

安易に「童話」をチャイルディッシュな物語として書き上げることに対して、著者は口をすっぱくして非を唱える。逆に言うと、いくら言っても「童話」というものをそういった形でしか書き上げることができない人が多いということなのだろう。

どんな物語を書くにも発想力と構成力が必要になるけれど、シンプルな言葉で簡潔に物語をまとめることが要求される童話では、発想された世界観や出来事や人物描写をいかにしてストレートに伝えられるか、というポイントが重要になるのではないかと思った。

2008年01月09日

日本国憲法を生んだ密室の九日間 - 鈴木昭典


Title: 日本国憲法を生んだ密室の九日間
Author: 鈴木 昭典
Price: ¥ 2,940
Publisher: 創元社
Published Date:

1946年2月4日から12日にかけての9日間、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部(General Headquarters))の民政局内部で秘密裏に執筆された日本国憲法の草案に焦点を当てた本。

テレビ番組として放映された取材をベースにした本で、実際に草案の執筆に携わった人たちの生の声が沢山入っていて、なかなか興味深かった。
毎日新聞によるスクープに始まり、日本国憲法のベースとなったマッカーサーメモ、それに「1週間で憲法の草案を書け」という無茶な要求に対して粛々と仕事をこなしたメンバー達の苦悩や葛藤。天皇の戦争責任について言及するアメリカ本国や連合国、それにあくまで保守的な態度を崩そうとしない日本政府の間に分け入って、ウルトラC的に草案をまとめあげてしまった当時のGHQ、ひいてはアメリカという国の底力はものすごいものだなぁ、と感じた。

よかれ悪しかれ、戦争後の時代の空気を反映した理想主義的な思想が多分に混じった憲法ではあるけれど、どういう経緯で、どういう人たちの手を介してこの憲法が出来上がったのか、ということを知るには非常によい資料だと思った。さすがに、この本だけだと少し偏ってそうなのでほかに2,3冊読んだほうがよさそうだが・・・。

2008年01月03日

大江戸テクノロジー事情 - 石川英輔


Title: 大江戸テクノロジー事情 (講談社文庫)
Author: 石川 英輔
Price: ¥ 680
Publisher: 講談社
Published Date:

出会えてよかった面白い本。

少し理屈っぽくてとっつきにくいところのある文章だけれど、江戸時代に日本が持っていた技術を紹介し、社会全体の調和が取れていた時代のよさをしっかりと描き出している。

暦の話や数字の話、お茶運び人形や花火や植物の話などなど、江戸時代の日本がいかに「技術の平和利用」に成功し、多様性のある豊かな文化を誇っていたかを丹念に拾い上げている。戦争に明け暮れたヨーロッパが生み出した近代文明のよさも悪さも、いい加減分かってきた「今」だからこそ、江戸時代のようなのんびりとした社会もよしとするようなメンタリティーが必要とされるのではないかと思う。

非常に啓発的であると同時に、豆知識もたくさん得られる素晴らしい本。

2008年01月01日

街場の中国論 - 内田樹


Title: 街場の中国論
Author: 内田 樹
Price: ¥ 1,680
Publisher: ミシマ社
Published Date:

すごく「まっとう」な中国論と「インスパイアリング」な議論が詰まった本。

この本は、よく本を読んで考える人が陥りがちな落とし穴をきちんと回避しながら(あるいは、回避できるようベストを尽くしながら)、中国という国について論じているのが最も大きな特徴だと思う。中国に関する素人である著者と学生だからこそ、素人にとっても分かりやすく、プロの世界で共有されている「空気」に汚されることなく自由な意見を交わすことができたのだろう。

中国に関する基礎知識や新しい視点を提供してくれると同時に、「国」や「社会」、それに「政治」といったことに関しても優れた議論が展開されていて、グイグイと引き込まれてしまった。
2008年に初めて読み終えた本がこういう面白い本で幸せだと思った。