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2008年02月18日

ベトナム戦記 - 開高健


Title: ベトナム戦記 (朝日文庫)
Author: 開高 健
Price: ¥ 546
Publisher: 朝日新聞社
Published Date:

冴え渡った文章で、ベトナムの「戦争」を綴った本。
そこで起きている戦争の姿に、表から裏からよく見て、実際に戦争の中に飛び込んで行ったりしながら肉薄しようとした記録が詰まっている。

ベトナムという国に染み付いて離れないニョク・マムの匂いと、貧乏な農民と搾取して権力争いに明け暮れる将軍や政治家達の姿。何と戦っているのか分からなくなりながら、農村に迫撃砲を打ち込み、枯葉剤を撒き、ジリジリと負け戦を続けるアメリカ軍。ひどい匂いのするトンネルをジャングルの中に縦横無尽に張り巡らして、徹底的に戦い続けるベトコン。反暴力の姿勢を貫きつつ、民を救うために苦しみ悩み続ける坊さん達。

ジャーナリズムというものの、究極的な姿がここにあるのではないかと感じた。

2008年02月15日

風邪の効用 - 野口晴哉


Title: 風邪の効用 (ちくま文庫)
Author: 野口 晴哉
Price: ¥ 630
Publisher: 筑摩書房
Published Date:

整体の先生による「風邪論」。
風邪というものを通して、彼の整体理論が浮かび上がってくる面白い本。

彼の理論における「風邪」とは、「経過するもの」なのだそうだ。
風邪とうまくつきあっていくことで、上手に健康を維持していくことができる・・・という独特な考え方は凄く面白くて、「うむぅ」と唸らせる何かを持っているように思う。

整体のことはよく分からないのだけれど、身体とのつき合い方について色々と考えさせられて面白い読書経験ができた。

2008年02月13日

恐るべき空白 - アラン ムーアヘッド


Title: 恐るべき空白 (ハヤカワ・ノンフィクション・マスターピース)
Author: アラン ムーアヘッド
Price: ¥ 2,415
Publisher: 早川書房
Published Date:

優れたノンフィクション。
19世紀中頃、オーストラリアがまだまだ発展途上の「開拓地」だった時代に、誰も足を踏み入れたことのないオーストラリア中央部に広がる地図上の空白を越えて、大陸縦断を成し遂げた探検家達の物語。

もしこの探検家達の計画が予定通り進み、万事うまくいっていたとしたら「バークとウィルズ」という名前もここまで有名になることはなかったのだろう。

残念ながら、バークは駄目なリーダーの典型で、なんとなくコトがうまく運んでいるように見えて、大事な局面で致命的なミスを犯して自滅してしまう・・・というタイプ。特に、人事の面でそれが顕著で、ただでさえ安定していなかった指揮系統が乱れて、隊のまとまりがなくなってしまったのをそのままにして、自分だけで局面を切り開こうとして見事に失敗してしまう。

この物語が今もってその輝きを失わないのは、バークの駄目さ加減がそのまま人間らしさとして解釈されているからなのかなぁ、と思う。絶望的状況の中でも希望を失わず、残された仲間達と共に生き延びようとする姿が実に生々しくて、読んでいて胸が苦しくなった。

**

この手の探検もので、個人的に好きなのが「エンデュアランス号漂流」という本。第一次大戦の最中に南極横断を企てて失敗したアーネスト・シャクルトンの探検隊が物凄い困難を乗り越えて全員無事に帰還する物語なのだけれど、「恐るべき空白」を読みながら常にバークとシャクルトンとの行動の違いを意識してしまった。

MEN WANTED for Hazardous Journey. Small wages, bitter cold, long months of complete darkness, constant danger, safe return doubtful. Honor and recognition in case of success------Ernest Shackleton.

求む男子。危険な旅。わずかな報酬、辛い寒さ、何ヶ月間もの暗闇の日々、隣り合わせの危険、期待できない安全な帰還、成功の暁には栄誉と手柄-----アーネスト・シャクルトン

2008年02月11日

知識無用の芸術鑑賞 - 川崎昌平


Title: 知識無用の芸術鑑賞 (幻冬舎新書)
Author: 川崎 昌平
Price: ¥ 756
Publisher: 幻冬舎
Published Date:

芸術そのもとと対峙せずに、その横に書かれている「知識」に逃れてしまいがちな自分に警鐘を鳴らしてくれるよい本。

著者同時の視点から、数々の作品を眺めた感想がつらつらと書かれていて、「そういう見方もあるのか!」とか「なるほど~!」と膝を打つ意見がたくさん詰まっている。

よく「芸術は分からない」と言われるけれど、その分からなさこそが芸術の面白さなのだと思った。

2008年02月10日

アナーキズム - 浅羽通明


Title: アナーキズム―名著でたどる日本思想入門 (ちくま新書)
Author: 浅羽 通明
Price: ¥ 945
Publisher: 筑摩書房
Published Date:

日本における、「アナーキズム」を俯瞰した本。
アカデミカル過ぎて退屈な本にならないように、アナーキズムに限らず、思想史というものの面白さが伝わってくるような構成になっていてなかなかナイス。

アナーキズムという思想・活動があったことは、頭では理解していたのだけれど、身近なものとして認識できなかった自分にとっては非常に刺激的な読書体験になった。
結局の所、思想とか宗教ってのは、それが発生して発達したバックグラウンドとセットで取り扱われるべきだし、それがある局面では薬になったり、ある局面では毒になったり・・・といったことをきちんと理解しなければならないのだと思う。

で、「アナーキズム」もまさにその典型的な例。国家とか権力とかいったものが無意味で、人間存在にとって不必要なものだ!・・・という主張は、例えばそういったしがらみ抜きで何かを作り上げる立場にある人(芸術家等)にとっては真だろうし、理想に燃えていながらも、人間の弱さによって堕落し続ける社会の営みに疲れた人にとっても真となるのだろう。けれど、もし本当に国家だとか権力だとかいったものが一切なくなってしまった時に、今ある人間の営みを持続できるのか・・・といったらそれは無理だと思うし、国家や組織がいかに腐敗してしまうものだとしても、今そこにある「あり方」として上手につき合っていくしかないのだとと感じた。

「アナーキズム」という思想・理想を完全に実現しようとすると、個々の人間は果てしなく強固な自我を持つことを求められてしまう。そして、アナーキズム思想の黎明期には、たくさんの(ある意味)無謀な試みがなされていて、非常に興味深かった。

**

究極的に「アナーキズム」を実現していた人って誰だろうと考えていて、12世紀のペルシャで若者を麻薬を使って殺人者に仕立て上げ、アラムートの砦を支配し続けたハッサン・サバーを思いついた。

2008年02月07日

大地の花 - 公文健太郎


Title: 大地の花―ネパール 人々のくらしと祈り 公文健太郎写真集
Author: 公文 健太郎
Price: ¥ 5,250
Publisher: 東方出版
Published Date:

学校の後輩(テニス部で一緒だった)で、主にネパール方面で写真を撮っている公文健太郎の写真集。
何年も何年も、同じ村に通い続けて撮った写真が収められているのだけれど、村人の表情が実に自然で活きていて、なんとも言えない臨場感を感じる。

村人の日常的な生活の一部を切り取った、生活感ありまくりな写真がメインなのだけれど、こういう写真が撮れるということは、それだけ村人達から見て「そこにいること」が自然な存在になっていたのだろうと思う。

以前チベットを旅していたときに知り合ったオランダ人が「日本人は、アジアを旅行していて欧米人ほど外部者として扱われない。だから、あちこちに出かけていった時に、その分だけその土地の人々の自然な姿に接することができる」なんてことを言っていた記憶がある。

ひょっとしたらこれは僕の勘違いかも知れないけれど、日本人である公文がこういった写真を撮れた背景には、こういった「アジア人同士のつき合い」みたいな側面があるのかもしれない、と思った。

2008年02月06日

恐るべき旅路 ―火星探査機「のぞみ」のたどった12年 - 松浦晋也


Title: 恐るべき旅路 ―火星探査機「のぞみ」のたどった12年―
Author: 松浦 晋也
Price: ¥ 1,400
Publisher: 朝日ソノラマ
Published Date:

題名の通り、日本初の惑星探査機「のぞみ」の、計画立案から設計、製造、打ち上げ、そして実際に宇宙空間を飛行していく中で発生する問題を解決していく様子に迫ったドキュメンタリー。
会社の先輩(いつも渋い本を読んでいるので参考にさせてもらってます)のブログで紹介されていたので、図書館で借りて読んでみた。

プロジェクトマネージメントという意味でも、日本の宇宙開発事業が孕んでいる問題点についての言及という意味でも、非常に示唆的で優れた本だと思う。

まず、「宇宙」ってのは実にイマジネーションをくすぐる空間なのだなぁ、ということを強く感じた。漠然と「宇宙はスゲェなぁ」なんて考えるわけだけれど、地球という自分たちが暮らしている空間から遠く離れて、自分たちのルールが通じない世界のことを考える、ということは、人間の創造力を強く刺激するように思う。そして、その「何が起きるか分からない空間」で、学問の力と工学の知恵とを結集して何かを成し遂げる、というプロセスは実に素晴らしいチャレンジなのだ。

「のぞみ」の失敗が明らかになり、火星の衛星軌道に載せることを諦める方策が採られようとしている中で、しぶとく軌道計算を続けて未来に可能性を繋ごうとしている姿に目頭が熱くなった。

エンジニアにとって失敗は付き物だし、「意義ある」失敗を積み重ねられる環境こそが優れた環境なのだと感じた。

2008年02月03日

エンピツは魔法の杖 - サム スウォープ


Title: エンピツは魔法の杖―物語・詩・手紙…ニューヨークの子どもたちに「書くこと」を教えた作家の奇跡のような3年間
Author: サム スウォープ
Price: ¥ 1,680
Publisher: あすなろ書房
Published Date:

素晴らしい本。
童話作家の著者が、ニューヨークのブルックリンの公立学校で小学生の子供達に「書くこと」を教えた3年間の記録。

様々なバックグラウンドを持つ子供達を相手に、ただただ懸命に「書くこと」「表現すること」の素晴らしさを伝えようとするスウォープ先生の姿が実に印象的。
「書くこと」や「教える」といったことについて色々と考えさせてくれると同時に、子供達の感受性の鋭さにも驚かされてしまう。多くの大人は、言葉というツールを中途半端な形でマスターして、分かり合えているような気分になっているのではないかなぁ、という気がしてしまう。下手に便利な言葉を知らない子供達の方が、よっぽど素直に世界を見ているし、ありのままに世界を描くことができるのだと思う。

子供達の目を通じて描かれる世界は、時に残酷で絶望的で恐ろしいものだったりする。そういったことから目を逸らさず、子供達と一緒になって悩み、考え、言葉を紡ごうとしたスウォープ先生の努力が詰まった本だと感じた。