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コーラン (上) - 井筒俊彦

宗教・人類学


イスラム教学者の井筒俊彦さんによる翻訳。
アラビア語のオリジナルバージョンのみが「コーラン」と名乗ることのできる唯一の正当な文章であり、翻訳されたものは全て「コーランの解説」という立場をとるのだそうだ。

上巻に収められているのは、イスラム教の創始者であるモハメッドが受けた啓示(アラーからの直接的な教え)のなかでも後期のものにあたり、後期メディナ啓示と呼ばれるものの前半部分らしい。

持ち歩いて読むのもチト違うなぁと思ったので、3ヶ月くらいかけて風呂に入るたびに少しずつ読み進め、ようやく読み終えた。最後のほうになってから音読すると面白いことに気付いたので、あの「使徒のもの」とか「神は**であられます」という興味深い文体を味わいながら読むことができた。

神による直接的な語りなので、基本的には神の一人称となり、実際に語っているムハンマドに対しても「汝」のような言葉で語りかけているのが特徴的。中に出てくるエピソードは聖書の創世記とかぶったものが多く、イスラム教から見て堕落しているキリスト教やユダヤ教に対する強い敵愾心(部分的には、友好的な記述もある)が現れている。

イスラムとは「身を委ねること」であり、その名の通りイスラム教の神アラーは非常におそれ多い神として語りかけている。優しいのか厳しいのか、たまに分からなくなるところがあるが、そのあたりの曖昧さも含めてとても魅力的な書物だと思う。
聖書を一通り読んでおくと、より楽しめる気がする。