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波止場日記 - エリック・ホッファー

伝記


1958年から1959年にエリック・ホッファーがつけていた日記。

労働と読書、それに思想する毎日がポツリポツリと語られている、とても中身の濃い本。
全体的なテーマとして、当時彼が執筆していた「知識人」に関する著述をまとめ上げていく上で彼が行った思考が綴られているのだけれど、当時の世界とアメリカの状況も含めて非常に興味深い。

彼はアメリカ的民主主義を成立せしめている個々の人々を信じる、というその大きなテーマを気に入っていたらしい。
当時台頭していたロシアを筆頭とする共産主義国家の無意味さを彼は骨の髄まで理解しており、またこれらの国家に対する厳しい指摘をたくさん行っている。

彼が一生涯かけて考え続けたことに「人が自由に生きること」という大きな命題があったように思える。
人が社会秩序や自然的状況から離れて自由に生きること環境、という意味でのアメリカは、確かに昔から変わらずに今でも世界で一番完成されているように思える。そして彼が常に恐れ続けていたのは、「庶民の国」であるアメリカが既存の国家であり社会秩序が持つ古臭い因習に捕らわれてしまうことだったのだろう。

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「どのような見方をしてみても、創造力は内的な緊張から生まれるものである。この緊張に加えて、さらに才能がなければならない。才能が全くない場合には、緊張はそのはけ口をさまざまな行動に求めることになる。」

「絵画・音楽・舞踊の先行性、非実用的なもの、無駄なものの先行性はどう説明するか。おそらくここに、人間の独自性の根源がある。人間の発明の才は、人間の非実際性および途方もなさに求められるべきである。」

「われわれはただちにプライドの化学についてできるだけのことを知るべきである。プライドー国家、人種、宗教、党、指導者に関するーは個人の自尊心の代用品である。」

「自由とは、人間をものに変えてしまうような、つまり人間に物質の受動性と予測可能性をおしつけるような力や環境からの自由を意味する。このテストにかけるならば、絶対的な権力は人間の独自性もっとも反する現象である。絶対的な権力は人を順応性のある粘土に変えたがるからである。
自由に適さない人々ー自由であってもたいしたことのできぬ人々ーは権力を渇望するということが重要な点である。」

「人間の独自性は安定し連続した環境においてのみ開花し持続しうる、と私は信じ始めた。現代社会に特有の、生活のあらゆる部門の絶え間ない根底的変化は、人間の本性に敵対するものである。」

「旧約聖書における自然の格下げは、近代西洋出現の決定的要因となっている。エホバは自然と人間を創造したが、人間を彼の姿に似せて創り、人間を地上における彼の総督となした。」