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ラフ・ライド / ポール・キメイジ

アイルランド出身の元プロレーサー、ポール・キメイジの本。

副題に「アベレージレーサーのツール・ド・フランス」とある通り、85年から89年までのプロ生活の中でひとつの勝利も上げることなく引退した彼のキャリアは、あくまで「アベレージレーサー」のもの。

アイルランド代表の自転車選手として活躍していた父をもち、アマチュア選手としてアイルランドチャンピオンに輝いた彼も、プロのロードレース界では輝くことはできず、5年間の選手生活に別れを告げてジャーナリストとしての道を選ぶ。ツールには3回出場して1回完走。

この本には、そんな彼が自転車競技に楽しさを見いだし、アマチュア選手として活躍し、プロ選手として送った日々のことが書かれている。ヨーロッパでプロ選手としてやっていくために平然とドーピングが行われている様子や、「エンターテイメント・ショー」として開催されるクリテリウムでの汚い話などなど、刊行された当時はそのあたりの内容がショッキングに受け止められたらしい(逆に言うと、それまでこの手の内部事情は暗黙の了解として関係者だけしか知らなかった)。

選手や監督の名前を出して直接非難していたり、「一握りのスター達」以外の人間がプロ選手としてやっていくことの辛さ・厳しさが諦めきった口調で綴られていて、引退して1年経たずに出したこの本には、彼が送ったプロレーサーとして生活に対するフラストレーションが詰まっているように感じた。

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自転車選手の栄光に鼓舞され、彼らの勇気に魅了されて、ぼくはその一員になる夢に向かった歩み出した。苦しい闘いだったが、青春を捧げてようやく夢を掴み、栄光と汗に輝く顔になった。不幸だったのは、約束の地は夢見てきたそれにはほど遠く、むしろ逃げ出そうともがいた世界に奇妙なほど似ていたことだ。つらかった。どうしようもないほどつらかった。この世界もまた汚く、腐敗していた。逃げだしたかった。

だが、逃げだすのは入るのと同じくらい難しいことがわかった。高度な自転車技術を獲得するために青春を捧げたが、現実の世界でそんなものが役に立つだろうか。おそらく役には立たないだろう。もう後もどりはできない。だからぼくは、彼らのルールに従って闘った。そして、生き残るためには薬物も摂らざるえなかった。

三度薬物を使ったが、一度も捕まらなかった。もし捕まっていたら、捕まった選手がすべてそうであるように、ぼくも「卑劣漢」の烙印を押されていたことだろう。だが、ぼくを「卑劣漢」とか「ずるい選手」とか呼ぶのはおかしい。ぼくは断じて「卑劣漢」ではなく、「犠牲者」だった。腐敗した制度、選手にドーピングを禁止するどころか、そそのかす制度の犠牲者だった。
(P.310)

彼が使った「薬物」とは、疲れ果てた状態で臨まざるをえなかったクリテリウムレースでチームメイトに打ってもらったアンフェタミンのこと。当時はツールなどのメジャーレースで名前を売った選手の「顔見世興行」のような形でフランス各地でクリテリウムが行われていて、こういったレースはキメイジのようなアベレージレーサーにとっては数少ない「稼ぐチャンス」だった。有名選手を窮地に追い込むような走りをする「かませ犬」役は、レースをエキサイティングなものにしたいレースディレクターの側からすれば重宝する存在で、いくら疲れていても元気な走りを見せる必要があった選手達は薬に頼らざるを得なかった・・・という事情があったようだ。

こういったクリテリウムレースではもちろんのこと、それ以外にもドーピングの検査が行われないことが事前に分かっているレースがあったそうで、そういった「ズル」をすることが織り込み済みのレースで純潔を保つのは難しことだったようだ。どこの世界にも汚い部分はあるとはいえ、自転車レースへの愛着が人一倍強く、アイルランドでそういった世界に触れることなく育ったキメイジには大きなショックだったのだと思う。

今では抜き打ちの検査が行われるようになっているし、捕まった選手に対する制裁も厳格化しているので、自転車レースをめぐるドーピング事情は一時期に比べればマシになってきているのだろう(そうであると願いたい)。そうはいっても、プロの世界の厳しさ、観客を喜ばせるショーとしての側面・・・などといった本質的なところは変わっていないわけで、ドーピングに限らずズルを根絶するには主催者、選手の双方に断固たる決意(by桜木花道)が必要になるのだろうと思った。


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コメント (4)

KOH:

ドーピングといえば、最近将棋の世界にもドーピング検査があると
知って驚きましたね~。あれもスポーツだったとは。。。

yama-kei:

> KOHさん
将棋・・・。
国際的にはチェスがスポーツ扱いされてるので、それに準ずる形で導入されたみたいですね。やはり、プロでもプレッシャーと集中力と闘うのは大きなストレスになるのでしょうか。

カンパニョロレ:

こんばんは

ドーピングというと、最近ファビアン・カンチェッラーラのメカニカルドーピングの噂があるようです。

フレームのBB付近に小型エンジン(モーター?)、ブラケットにスイッチを仕込んでいるというもので、ご丁寧にCGによる解説つきです。

http://www.youtube.com/watch?v=8Nd13ARuvVE&feature=player_embedded

ところで、本日ロードバイクのチェーンを交換しました。
前回なるしまで交換してもらい、6000km程走りましたもので。

コンポはCHORUS10Sなんですが、最近カンパ10SのチェーンはRECORDとVELOCEの2グレードしか流通していない模様で、しかも専用工具はご存知の通りの値段です。

そこでサードパーティのメーカーで良さげなのはないもんかとネットでいろいろリサーチしていたら、シマノの10Sチェーンが問題なく使えることが判明。

ヤフオクにてDURA-ACEのチェーンCN-7801を2,600円、シマノの工具TL-CN27を2,050円であっさり落札し、本日交換したというわけです。

で、走ってみたらこれが全く問題なし。カンパ純正となんら変わりありません。
チェーンのコストが半分以下になりますのでぜひお試しを。因みに、新型のCN-7900でも問題ないそうですよ。

yama-kei:

> カンパニョロレさん
カンパとシマノのチェーン互換、初めて知った時はけっこうびっくりしました。
手元にはまだカンパのチェーンのストックがあるので、次に使い切ったらシマノになりそうです。

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2010年06月03日 08:57に投稿されたエントリーのページです。

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