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2006年06月19日

ザ・サーチ - ジョン・バッテル


グーグルだけでなく、インターネットとウェブの歴史を通じて沢山の人と資本を通じて試みられてきた「デジタル情報の検索」を扱った本。

もちろん、現在において最も有効かつ実用的な検索システムを構築しているグーグルがメインな登場人物なのだけれど、会社の成り立ち(1996創業とは知らなかった。もっと新しいものと思っていた)から、苦悩していた時期、それに検索業界の盟主として君臨し、さらなる挑戦を続ける姿までをしっかり描いている。

アルタ・ビスタ、ヤフー、ライコス、エキサイト・・・、今になって考えればドット・コム・バブルという時代に輝いていたプレイヤー達はとっくに墓の中に収まってしまっている。
グーグルが持ち続けてきたストイックなまでの「技術」と「革新」に対する挑戦こそ、彼らが持つ一番の価値であり財産なのだなぁ、とつづくづく思った。

2006年04月22日

ウェブ進化論 - 梅田望夫


とある人がおすすめしていたので読んでみた。

インターネットは社会の何を変えようとしているのか。
ネットバブルとは何だったのか。
ロングテールとは何か。
Googleの何がそんなにすごいのか。

PCとインターネットによるコンピューティング世界の革命という観点や、それらを対比(マイクロソフトとグーグルを比較するとよく分かる)しているあたり、とても面白く読めた。
自分にとっては、自分の頭の中でモヤモヤして、どことなく理解していたことをしっかりとした言葉でまとめてくれた印象が強く、日頃から強く思っていることを代弁してくれたような本。「あぁ、そうそう、そうなんだよぉ~」っていう内容。

「Googleはインターネットの声を聞いて開発を続けているんだ」という言葉は目から鱗。そうだよね、たしかに「インターネット的な合理主義」をつきつめていけば、いつもGoogleのやっているところに結びついていくような気がする。
これは現在メディアを扱うツールとしてのPCにおいてAppleがやっているのと同じで、要は既存の常識やルールにとらわれずに考えれば、誰だって突き進むことができる道なのだと思う。この道に辿り着いて、走り始めることが凡人には難しいのだけれど・・・。

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最後の方にも書いているけれど、著者は常に挑戦し続けるシリコンバレー的姿勢が大好きで、日本の企業にもそういった風土を持ち込むことを願っていたようだ。
日本的なネチネチした空気の中で、本当に革新的であっけらかんとしたGoogleのようなものが生まれることは期待できないかも知れない。だけど、Googleなんかより、もっともっと小さな規模の企業や集団でも面白いことができるのがインターネットの強みだ。本質的にシステムのルールを自分で紡ぎ出せるような存在にはなりえないとしても、ピリリと辛くて、世界中に影響を与えるような何かが育つ可能性は十分にあるのではないかな、と思った。

2006年04月08日

デジタル音楽の行方 - David Kusek & Gerd Leonhard


デジタル技術がどのように音楽業界を変えつつあるか、ということについて論じられた本で、一番よくまとまった本。
何せ、本を書いているのがMIDI規格の開発に携わった人と、音楽ビジネスの前線で活躍している人なのだから、当然と言えば当然。やっぱりちゃんと分かってる人は分かっているのね、という内容。

商品パッケージとしての音楽が、ただ単純にモノであったり客寄せ目的で売られている、という事実を「問題」である、と思えるくらいの常識人であれば、この本で論じられている内容があてずっぼうに書かれた夢物語ではないことがよく分かると思う。

本の中で繰り返し繰り返し言われているけれど、結局技術の進化によって何か新しいことができてしまうようになった場合、その技術は何らかの本質的なメリットを本質的に関係している人たちに*のみ*与えることになる。だから、仮にデジタル音楽がタダで手にはいるようになったからって音楽業界ってものがなくなってしまうわけではなくて、音楽を作る人も聴く人も、それを選別したり広めようとしたりする人も存在し続ける。単純に、これらのプロセスがより効率的になって、音楽を聴く人にとってより音楽が身近になるだけのことだ。「音楽」という文化の根幹部分には全く影響を与えない。何と言ってもイケてる音楽はいつだってイケてるし、イケてない音楽はいつまでたってもイケてないのだから。

個人的には、これまで類似本を何冊も読んでいる上に普段から本で取り上げられているようなことを考えているので70%くらいは「あぁ、そうだよね」ってな感じでペラペラ読んでしまった。

図書館に置いていないので、しかたなく自分で買ったのだけど、
チープなノリの表紙がイケてないことを除けば、技術的な話も、音楽文化、ビジネスサイドの話も全て適切によくまとめられている良い本だと思う。

2005年11月06日

16歳のセアラが挑んだ世界最強の暗号 - セアラ・フラナリー


アイルランドの女の子が学業のコンテストで暗号学の発表をやったのを皮切りに、独自の公開鍵暗号の開発・実装まで手を広げ・・・という物語。

セアラの家庭環境はいかにもアイルランド風でのんびりしている。
お父さんは数学の先生、お母さんは微生物学の先生として大学で教えていて、5人兄弟の7人家族は農場の真ん中にある農家で暮らしていて・・・という具合だ。

子供時代に父から出されたクイズの話や、物事の本質を見極める才能に長けた母親のエピソードはとても印象的。
トランジションイヤー(中学から高校の間に1年間好きなことができる制度)を取ったセアラはお父さんが開いていた大学での夜間講座「数学への旅」に出席し、そこで数学の面白さを存分に知る。

セアラがコンテストで活躍し、ロン・リヴェスト(世界で初めて実用化された公開鍵暗号のRSAはMITの3人の科学者の頭文字を取ったもので、そのうちの"R"の人)から電話がかかってくるくだりや、一躍時の人になってしまった彼女の興奮ぶりが読み取れる文章はとにかく熱い。

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数学が好きな人にたまらなく面白い読み物だと思う。
本の中で幾度となく触れられるサイモン・シンの「暗号解読」と「フェルマーの最終定理」が好きな人ならきっと世を徹して読みふけってしまうことだろう。

ちなみに英語圏では"Sara"を日本風に「サラ」と読み、"Sarah"は「セイラ」と読む。後者には少しだけ“ア”の発音が真ん中に入るので、「セアラ」も間違ってはいないと思うけど、個人的には少し違和感を感じた。

2005年05月24日

音楽未来形 - 増田 聡


あちこちで評判になってたので読んでみたのだけど、評判通り面白い。

音楽が楽譜、録音、という複製技術の普及によってどのような変化を遂げてきたかがしっかりと押さえられていて、細かいところへのフォローもしっかりしているので読みやすい。
音楽に格別興味のある人ならずとも、著作権やデジタル技術に興味のある人であればぐいぐいと引き込まれると思う。

録音技術発達後における音楽の扱われ方の変異に対する洞察がとにかく素晴らしい。
結局買わずに図書館で借りたのだけど、この内容なら買ってしまってもよかったな、と感じた。