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古道巡礼 - 高桑 信一

山登り


Title: 古道巡礼
Author: 高桑 信一
Price: ¥ 2,100
Publisher: 東京新聞出版局
Published Date:

近代化とモータライゼーションによって滅んでしまった、「人」によって歩かれた「径」を巡る旅の本。開かれた平地にそういった道が保存されることは期待できないので、自然と著者による「古道」を巡る旅は、険しい山の中に分け入ったものが主になってくる。

古来より、近隣の村人や旅人、行商人や旅芸人が越えてきた峠。最盛期には小学校や郵便局まであったのに、今ではその痕跡を探すことさえ難しくなっているような山師達の村。つい数十年前まで、山菜やきのこを採るために使われていた、地元の人たちの径。
時間の流れの中で、作られ、知らされ、踏み固められ、壊され・・・といったプロセスを経て、今また静かに時間の流れの中に還っていこうとする、貴重な人類の遺産だ。

この本で著者が訪れているのは、東北地方や山間部に微かに残る、今にも自然に還ってしまいそうな「径」であり、その「旅」は多分に文化的であると同時にハードな山旅である。快適な山小屋が期待できるわけでもなければ、登山道という名の安楽な「道」がついているわけでもない。技術の進化や、自然環境の変化によって動的にその姿を変えてきた「径」は、名も無き人たちによる無言の声であり、生きた生活の足跡であり、現代人にとって容易に辿ることのできない魅力に溢れた「径」なのであった。