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始祖鳥記 - 飯嶋和一

小説・詩集


Title: 始祖鳥記 (小学館文庫)
Author: 飯嶋 和一
Price: ¥ 730
Publisher: 小学館
Published Date:

実に魅力的な本。
あまりに面白かったので、ついつい夜更かしして読み切ってしまった。

江戸時代の日本に「空を飛ぶこと」に情熱を燃やし続けた男がいた。その名も浮田幸吉。備前の国は児島郡八浜に生まれ、表具師(掛け軸や襖、屏風などを扱う職人)として生活していた彼は、その技術と類い希な好奇心でもって巨大な凧を作って空を飛ぶことを目論むのだが・・・というお話。制度的には閉鎖的かつ固定的だった江戸時代において、自由な創造に思いを馳せた人間を描くことで、空間的にも精神的にも奥行きのある物語になっている。

彼が岡山城下に流れる橋の欄干から飛び上がったのは1785年と言われる。その後の彼の消息については諸説あるようだけれど、この本では想像を逞しくして、彼の冒険的な後半生を魅力たっぷりに描いている。

物語の主軸として、「鳥男」幸吉の他に、彼に関係した当時一流の人物達にスポットが当てられている点も物語のよい味付けになっている。弁財船に乗り込んだ海の男達の生き様や、塩の商いで新しい商路を見いだした商人の物語も、飽くなき挑戦心を持ち続けた男達の記録としてなかなか読ませる。

ただし、幸吉が乗り込んだ船の持ち主「源太郎」が北前船の先駆となったような記述があるけれど、北前船の航路(日本海沿岸を北上して北海道まで行き、太平洋側を下る)は1672年頃に開通していたようなので、少し食い違うような気もするが、まぁそういうのは置いておこう。

身分制度や頭の固い幕府によって身動きが取りにくい時代にあって、ひたむきに夢をおいかけた男達の記録だ。