Just Ride / Grant Petersen

ラジカルで実践的な自転車遊びについて、自転車歴の長い著者の意見を書き綴った本。各テーマごとに短いエッセー形式でまとまっているので読みやすい。

本を通して貫いているテーマとして、自転車業界が作り上げている「レーサーが上位に位置する階層構造」によって、よりハイテクでレーススペシフィックな技術(=複雑で繊細で軽量で高価)を正当化する流れに対して「ノー」を突きつけていることが挙げられる。著者による、レース活動をしないサイクリストの総称である”Unracer”という視点から、ある意味原点に帰った自転車の楽しみ方を提案しているのが本書であり、自転車遊びをメーカーが定義するものではなく、ユーザーが実践的に作り出していくものにするという姿勢にはとても共感できる。

自分は自転車レースの世界にどっぷりハマっていた人間だけど、ロードバイクに乗り始めたのはより長い距離を楽に楽しく走りたいという理由で、現に最初の2年くらいは仲間に誘われて参加したヒルクライムを除けばレース活動と呼べるようなものはゼロ。ローラー台なんていうものも心の底から忌み嫌っていたので(現にレースから足を洗った3,4年前にすっきり処分した)、アマチュアの一般サイクリストにとって自転車は遊び道具であり、レースという特殊な状況を想定した機材や文化が明確なメリット無しに非レーサー(Unracer)に対して押し付けられるのはどうなのよ、という著者の主張はしっくりくる。

面白いトリビアとしては、Q-Factorは著者による造語で、”Q”はアヒルの鳴き声”Quack”からとったというお話。MTBが流行った際に急速に拡大していたQ-Factorをガニ股のアヒル歩きに見立てたのだそう(wiki)。

あくまで自分の肌身感覚だけど、ロードバイクを所有している人口層の中で定常的にレースに参加しているのは1%にも満たないだろうという印象を受ける。合理的に考えて、レースレベルの走りでしか意味が出にくいものに投資して持て余すよりも、自分の自転車遊びのスタイルにマッチした、現実的で実践的で走りに行くことが楽しみになるような、そんな自転車を自分で作り上げていったほうがより充実した自転車ライフを送れるのではないかと本を読みながら考えていた。

そうは言っても自分は舗装路で高速走行できて、峠に登ったり、遠くまで楽に行くことができるロードバイクはレース抜きでも大好きなわけだけど、メーカーの都合に振り回され続けるのはまっぴらだし、マイペースでゆるーい自転車遊びを楽しむ方法はもっと確立していてもよいのかなと感じた。

この本で言いたかったことは、あなたの自転車生活をより素晴らしいものにしていないレースシーンの影響から脱しましょうということだ。スピード、(想像上の)名誉、ネット上の評価といったものに惑わされることなく、あなたにあわない自転車に無理に乗ることなく、ただ自転車に乗るためだけに酷い格好をすることなく、フィットネスだけのため、あるいは苦しむためだけに自転車に乗るのはやめよう。あなたの自転車は、実用的かつ快適で、楽しく、ちょっとお金がかかるおもちゃであって、あなたがそれに乗るのは純粋に楽しむだけでよいのだ。」(導入部分より)

日本語訳も出てるようです:

Just Ride / Grant Petersen」への2件のフィードバック

  1. 初めてコメントします。
    私も、レースにどっぷり身を置く人間ですが、本エントリー非常に興味深く拝見しました。早速、書籍を購入して私自身で読んでみようと思います。
    (どうでもいいことかもしれませんが、英語版の本のリンク先が違う本になっているようです。)
    ご紹介、ありがとうございました。

  2. Bagel Pandaさん、はじめまして。
    レースはレースで最高に楽しいですが、自転車趣味はもっと多面的に楽しむこともできるのかなーと思ってます。
    リンク間違い、教えていただきありがとうございました!

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