民藝とは何か - 柳宗悦
文化・芸術
Title: 民藝とは何か (講談社学術文庫)
Author: 柳 宗悦
Price: ¥ 798
Publisher: 講談社
Published Date:
実に味わい深いよい本だった。
「民藝」とは実用的な日用品の中に生まれる「美」のことで、著者は「美しさ」をのみ求めた「芸藝」と対照的な言葉として定義している。
実用品であり、無銘の安物であり、一般市民が使うものであるがゆえにシンプルで力強い美しさがそこにはあり、それこそが根源的な「美」なのである、と宗教哲学者の著者は説く。全ての「道具」は使われるために生まれてきたわけで、鑑賞されるためだけに作られた「道具」には、過度な装飾であったり不健全さが伴ってしまう、とも。
もちろん、この議論は「美」の問題だけに留まらず人間存在一般にもあてはめることができるだろう。「明確な目的がある」と信じて何かに集中しすぎるのは危険で、意識の流れに耳を傾けながらうまく力が抜くことが大事なのだと思う。集中しすぎるうちに「明確な目的」だと思っていたものはいつの間にか変形してしまい、何がなんだか分からなくなってしまう・・・ということはよくあるのだ。
名を残さなかった人たちの、物言わぬ「美」に耳を傾けることを説いた、実に魅力的な本であった。