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白痴 - ドストエフスキー

小説・詩集


「完全に善良な人間」を描こう、という意思によって綴られた小説。
物語のはじめのほうに提示された悲劇の予兆は、幾筋もの支流を経て、やがて途方もなく深く、救いのない悲劇の海へと読者を流し込む。

全てを許すことができ、全ての人に愛されることのできて、そして悲しいほどまでに純粋な人間。
この物語の主人公であり「白痴」として描かれるムイシュキン公爵は、他人の性質をひと目で見抜く洞察力や、その他の素晴らしい美徳や生まれ持った幸運を授かっているものの、その才覚を現実社会で活用する才覚だけを持ち合わせていない。
こんな人間が平和で牧歌的であった療養先のスイスから、沢山の現実的(または非現実的)な人間の思惑が入り乱れるロシアに帰ってくるところから物語は始まる。

精密な人物描写や、ころころとシーンが切り替わっていく文章はドストエフスキーらしい。
どこまでも救いのない登場人物が沢山出てくる物語だと思う。

救いのない世界で、いかにしたら救いを見出す可能性を見つけられるのか?
これこそが、恐らく、ドストエフスキーが小説を書いた理由なのではないだろうか、と、ふと感じた。