« 最暗黒の東京 - 松原岩五郎 | メイン | 落語の国からのぞいてみれば - 堀井憲一郎 »

子どもの貧困 - 阿部彩

経済学・社会学


Title: 子どもの貧困―日本の不公平を考える (岩波新書)
Author: 阿部 彩
Price: ¥ 819
Publisher: 岩波書店
Published Date:

貧困学者による「日本の子どもの貧困論」。

「格差」という言葉がメディアをにぎわすようになって久しいけれど、この本で扱っているのは「貧困」問題。「貧困」の定義にも「相対的貧困」と「絶対的貧困」というのがあって、ひとつの社会の中での貧困(相対的貧困)と全世界共通の尺度での貧困(絶対的貧困)とがあるのだそう。この本における「貧困」とは「ひとつの社会において最低限の生活を送ることができない状態」(=相対的貧困)。

「国民総中流」の幻想が未だに深く根付いている日本では、「格差」の存在がまずもって注目されているわけだけど、何らかの形で補助を必要としている「貧困」状態にある人の数が想像以上に多いことに驚いた。

「子どもの貧困」という観点で見ると、シングルマザー世帯の子どもの貧困率が突出して高いようだ。それぞれの家庭の「格差」が子どもの「格差」として引き継がれている現実と、いかに政府が打ち出している「貧困対策」が空回りしているか、ということについても指摘がなされている。一番困ってる人に救いの手が届いていない現実をどうにかしたいという著者の気持ちが伝わってくる。

イギリスでは、ブレア元首相が打ち出した「2020年までに子どもの貧困をなくす」宣言によって、ティーンネイジャーがポコポコ子どもを産んで給付金で生活して・・・という問題が出ていると聞く。もちろん、これはこれで問題であるとは思うのだけど、ひとつの社会における子どもの価値は、その社会の全ての構成員にとって共通の価値なので、過度にフリーライダーを排除するような方向に動く必要はないのではないかと感じる。

日本におけるこの手のセーフティネットの拡充は、いつも対応が後手後手に回った挙句に何がしたいのかよく分からない形で世に出てくるように思うのだけど、この問題ばかりはきちんとした形での対応が求められているように思った。