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2009年01月31日

立身出世主義 - 竹内洋


Title: 立身出世主義―近代日本のロマンと欲望
Author: 竹内 洋
Price: ¥ 1,995
Publisher: 世界思想社
Published Date:

明治維新以来の近代日本の立身出世主義について研究した本。

明治初期は真の意味で高等教育を受けることに意義があった時代だったようだけど、その後には高等教育を受けるという価値感だけが高騰してしまい、結果として自己目的化した受験社会を生み出すに到った・・・というのがこの本の主旨(まとめすぎ)。

この「真に高等教育を受けることに意義があった時代」に、いかに立身出世ということが社会に広まり、若者達を鼓舞し、東京の人口を増やし、苦学生を生み、近代日本を形作ってきたか・・・ということが丁寧に研究されている。

エリートの輩出装置だった旧制高校のバンカラぶりや、高等小学校卒の「インテリ志望」達のクーリングオフ装置となった自習用の講義録の話。さらには苦学生達の苦労と「学校出」の中流階級が創出されていく過程などなど、様々な視点から近代日本の立身出世「幻想」を見つめていて、とても面白く読むことができた。

現代日本においては崩れつつあるにせよ、近代日本が造りあげてきた社会構造の一端を覗くことができる有意義な本。

2009年01月28日

話し言葉の日本語 - 井上 ひさし、平田 オリザ


Title: 話し言葉の日本語
Author: 井上 ひさし, 平田 オリザ
Price: ¥ 1,575
Publisher: 小学館
Published Date:

「母親が置いてった本をサクッと読んでしまおう」シリーズその4。

二人の劇作家による、演劇&脚本&日本語論。

脚本関係の雑誌上で行われた対談らしく、ある程度芝居の脚本に興味がある人向けの内容。なかなか面白いことを言っているし、読んでる最中はなかなか楽しめるのだけど、読んだ後に印象に残るほどの「言葉」がなかった。対談という形で議論が発散してしまっているように感じられる。

2009年01月27日

Campagnolo: 75 Years of Cycling Passion - Paolo Facchinetti


Title: Campagnolo: 75 Years of Cycling Passion
Author: Paolo Facchinetti, Guido Rubino
Price: ¥ 4,083
Publisher: Velopress
Published Date:

書いた人には悪いけど、「カンパニョーロ完全読本」がただのゴミに見えてしまうほど充実した本。
ちょっとした写真集として買うのもあり。

カンパニョーロ社が存在する前の時代の自転車の進化から、オーネクロス峠での伝説的なエピソードとカンパニョーロ社の誕生、そしてディレイラー装置の発展にいかにカンパニョーロ社が絡んでいったといった流れがよくまとまっている。歴史的なレーサー達や、カンパニョーロ社提供のレアな写真やなんかも収められているので、じっくり読んでもパラパラ見ても楽しめる。

黎明期の変速システムや、初期のデュアルロッド式の変速システム、それからパンダグラフ型リアディレイラーへと繋がる歴史などなど、メカ的な進化はエンジニア的に見ていて興味深い。細かいところで大きな改善がなされているとはいえ、ディレイラーの基本的な仕組みは40年間変わっていないことはすごいことだと思う。

2009年01月25日

インテリジェンス 武器なき戦争 - 手嶋 龍一, 佐藤 優


Title: インテリジェンス 武器なき戦争 (幻冬舎新書)
Author: 手嶋 龍一, 佐藤 優
Price: ¥ 777
Publisher: 幻冬舎
Published Date:

「母親が置いてった本をサクッと読んでしまおう」シリーズその3。

インテリジェンス業界の第一線で仕事をしてきた人と、その周りで記事を書いたりしてきた人とが、「インテリジェンス」について語り合った対談をまとめた本。

この本で語られているインテリジェンスとは、国家にとってのセキュリティを確保するために「武器」ではなく「頭脳」を使う存在のこと。手っ取り早く言うならイギリスのM13だとかイスラエルのモサドといったあたりを連想すると分かりやすい。

身近じゃないのでよく分からない世界だけど、なかなか厄介で面白い世界があるのだなぁ、と思った。

2009年01月24日

対話のレッスン - 平田オリザ


Title: 対話のレッスン
Author: 平田 オリザ
Price: ¥ 1,500
Publisher: 小学館
Published Date:

「母親が置いてった本をサクッと読んでしまおう」シリーズその2。

日本の社会・文化・言語・人における対話の不存在をテーマに、劇作家である著者の「言葉」や「コミュニケーション」に関する意見をパラパラと書き連ねた本。もともとは雑誌に連載していたエッセーのようだ。

- コミュニケーションには様々なモードがあること
- 言葉は時代のニーズに応じて変わっていくものであること
- 人には様々なコンテキストがくっついていること
- 「対話」とはコンテキストとは無関係に成立するコミュニケーションであること

などなど。
読みやすい文章だけど、面白いことが書かれている。

日本において、いかに「対話」というものが存在してこなかったか、ということに関しては「怒れる哲学者」中島義道さんの「「対話」のない 社会」が参考になる(この本にも紹介されてる)はず。

2009年01月23日

食品の裏側 - 阿部司


Title: 食品の裏側―みんな大好きな食品添加物
Author: 安部 司
Price: ¥ 1,470
Publisher: 東洋経済新報社
Published Date:

「母親が置いてった本をサクッと読んでしまおう」シリーズその1。

食品添加物をバリバリ売り込んでた人が書いた本。著者は、著者自身が開発に携わった「廃棄寸前のクズ肉を添加物で再生させた」ミートボールが自分の家庭で食されていることにショックを受けて、添加物に対する考え方を根本的に変えたのだそう。世のオバサマにとって、「悪の権化の改心」ほど魅力的なコンテンツはないですナ。

「食品添加物=悪」と言い切るのではなくて、食品添加物が使われるようになった一番の理由は「消費者の要求」であったことがきちんと書かれているところが好印象。「食品添加物を食べたから**が悪くなる」的な問題よりも、食品添加物という「甘え」にすがってしまっている食品業者&消費者双方に問題がある、というのが著者の視点。

あと、いくら「食品添加物」とヒステリカルに騒いだとしても、「食品添加物」の中には何百年の昔から使われ続けているものもあるわけで、それらとの違いは「時という名の洗礼を受けているかいないか」の違いでしかないという指摘もその通りだと思う。結局、人が「便利」「美味しい」「安い」といったものを追い求めている限り「食品添加物」は使われ続けるわけだし、仮にそれらのうちの一部が身体に悪影響を及ぼしていたとしても、長い目で見れば淘汰されるわけだからガタガタ騒ぐことはないんじゃね~かな~、というのが個人的な読後感想。

2009年01月22日

流れる - 幸田文


Title: 流れる (新潮文庫)
Author: 幸田 文
Price: ¥ 460
Publisher: 新潮社
Published Date:

面白い本ですね、ハイ。
芸者屋さんの家で女中として働くことになった「しろうと」女性の目から見た人間模様。芸で鳴らした主人の「女っぷりのよさ」からゆすりたかりの田舎親爺、年増の中年芸者まで、その世界に生きる様々な人たちの姿が生き生きと描かれている。

関川 夏央さんの「家族の昭和」を読んで、久しぶりに幸田文さんの文章が読みたくなったので手に取ってみたのだけど、やはり幸田文さんの文章は好きだなぁ。幸田露伴自らの手によって育てられた最強の「家庭人」である幸田文さんの観察眼、知識、人生経験、その他様々なエッセンスが凝縮された小説だと思う。

2009年01月20日

安全。でも、安心できない… - 中谷内 一也


Title: 安全。でも、安心できない…―信頼をめぐる心理学 (ちくま新書)
Author: 中谷内 一也
Price: ¥ 735
Publisher: 筑摩書房
Published Date:

社会心理学的アプローチから、人が様々なリスクファクターをどのように扱うか、ということを論じた本。

当事者にとっての「安全」と、利用者や消費者等にとっての「安心」の間には深い溝があって、それをどのようにしたら埋めていくことができるか、ということをテーマに、様々な「安全学」のモデルや理論が紹介されている。

リスクを判断する側から見て、

「当事者の能力」
「当事者のモチベーション(動機付け)」

といったファクターが大事であることは間違いないのだけれど、多くの場合において「当事者達の意識」と「判断者側の意識」に隔たりがある、という指摘は的を得ている。また、リスクを判断する側が適切な専門知識や強い動機を持っていない場合には、第三者を介した間接的かつ表面的な形でのリスク勘定が行われることが多い、というのもその通りだなぁと思う。

2009年01月18日

ひび割れた晩鐘 - 亀山健太郎


Title: ひび割れた晩鐘―山岳遭難・両足切断の危機を乗り越えて
Author: 亀山 健太郎
Price: ¥ 1,500
Publisher: 本の泉社
Published Date:

丹沢の源次郎沢を登攀中に墜落して開放骨折し、最新治療によって両足切断の危機を免れた人の記録。還暦過ぎの著者の山登りやその他の事柄に関する知見や意見が詰め込まれており、なかなか読ませる本になっている。

「普通の人」が「身近なルート」で「ありがちな事故」を起こした結果、どういった危険が待っているか・・・、ということがよくわかる。源次郎沢自体は登ったことがないけど、水無川沿いの沢は何本も登攀しているのであの界隈の沢は自分にとって身近な存在。2,3年前の沢登りの際、高巻き後の滝の上でスリップしてしまい、10m近いフォールから辛うじて免れた経験のある自分としては、著者の墜落は他人事では全くない。

事故~搬送~手術~感染症との闘い~リハビリ・・・という流れの中の出来事が事細かに綴られているので、闘病中の人、ある程度の危険を伴うクライミングをやっている人、面白い本が読みたい暇な人、などにおすすめできる。

ちなみに“晩鐘”(ばんしょう)とは、「夕方に鳴らす寺院・教会などの鐘の音」とのこと。

http://www.hirotarian.ne.jp/backno/1908-yume.html

2009年01月08日

延長戦に入りました - 奥田英朗


Title: 延長戦に入りました (幻冬舎文庫)
Author: 奥田 英朗
Price: ¥ 520
Publisher: 幻冬舎
Published Date:

ゆるくて笑えるスポーツエッセイ。
笑いどころのツボがうまく押さえられていて文章も上手。

この本の中で気になったのが「ベリーロール」。
どうやら昔の走り高跳びでは「ベリーロール」なる跳び方が主流だったようなのだけど、アメリカ人のディック・フォスベリーが1968年のメキシコオリンピックで初めて披露して勝利を飾り、瞬く間に背面跳びに取って代わられてしまったようだ。

http://www.youtube.com/watch?v=Id4W6VA0uLc&eurl=http://blog.livedoor.jp/rikujo_douga/archives/50860256.html&feature=player_embedded

2009年01月05日

ケータイ小説的 - 速水健朗


Title: ケータイ小説的。――“再ヤンキー化”時代の少女たち
Author: 速水健朗
Price: ¥ 1,575
Publisher: 原書房
Published Date:

ケータイ小説は実はヤンキー文化に属するものである、という著者の意見をベースに、ケータイ小説を中心とした携帯世代の生態を綴った本。

当否はともかくとして、近年の日本の若者世代がどういう文化様式のもとで生きているかということを考える上で大変面白い本。ケータイ小説なんて絶対自分は読まないし・・・と考えている人こそこういう本を読むと楽しめると思う。

浜崎あゆみがただのギャル系売れ筋シンガーだと思ってた自分としては、彼女のブレーク前時代やケータイ文化の教祖であったといった事実がなかなか面白かった。

古くは浄瑠璃や歌舞伎から、雑誌の投稿や漫画・アニメ・ゲームなどといった形で変移してきた「物語を消費する文化」の最先端がケータイ小説なんだなぁ、と勝手に納得。ケータイ小説を彩る妊娠・中絶・恋人の死・不倫・DVといった(自分にとっては全く理解不能な)テーマは、ある世代の若者にとって共感することのできるリアリティーであり、空虚な現実の埋め合わせとして機能しているのではないかと感じた。

文化の形なんて10~20年であっという間に変わってしまうものだ。ケータイ小説がいかに現代の「オトナ」に理解できないものであったとしても、10年後には立派なメインストリーム文化になっている可能性だってあるのだなぁと思った。