« 臨床瑣談 - 中井久夫 | メイン | 階級にとりつかれた人びと - 新井潤実 »

不機嫌なメアリー・ポピンズ - 新井潤実

経済学・社会学


Title: 不機嫌なメアリー・ポピンズ―イギリス小説と映画から読む「階級」 (平凡社新書)
Author: 新井 潤美
Price: ¥ 798
Publisher: 平凡社
Published Date:

現代の英国においてもまだ存在する「階級(=クラス)」を小説や映画から読み解いた本。

喋る言葉から住む家、飲むお酒から楽しむスポーツまで、何から何までが異なる英国における「階級」は、ほぼ全ての英国人が意識せざるをえない重大事項。アッパー・クラス(貴族)とワーキング・クラス(普通の人)までは分かりやすいからよいとして、英国における階級を決定的に特徴づけているのはアッパーとロウアーに分断されたミドル・クラスの存在。

ミドル・クラスは、英国が豊かになり始めた時代に一財産を作ったワーキング・クラス出身の富裕層によって確立された階級で、典型的に「ジェントルマン」と呼ばれる。これは、いわゆる本物の「ジェントルマン」を規範としつつ、どうあがいても本物のジェントルマンにはなれない彼らに対する蔑称でもあったのだそう。

裕福な商家や企業家、それに名誉的な職業(弁護士、医者)に就いている貴族の次男、三男などによって形成されたミドル・クラスがひとつの社会集団として認知されていったのに対し、ビクトリア時代の都市部で労働者階級からの脱却を計った人々は典型的にロウアー・ミドル・クラスと呼ばれた。彼らは主に都市部におけるホワイトカラーとして働き、いわゆる労働者階級とは異なる生活様式と価値観を持ちながらも、「確立されたミドル・クラス(=アッパー・ミドル・クラス)」にはどうしても届かない身分であった。

英国の階級をややこしくしているのが、財産や教養、それに結婚などによって階級間(特にミドル・クラス)を移動することができる、という状況。インドのようなカースト制であれば、階級はその出自によって決まるからどうしようもないけど、自分の才覚や努力によってより「恵まれた階級」に身を置くことができる可能性が開かれているという事実は、より一層彼らの「階級に対する強い興味と自覚」を促したのではないかと思う。

結局の所、こういった階級分けはいわゆる「文化のサンスクリット化」的状況に他ならない。財産や土地を持っている人がより優雅な生活を送っていて、持ってない人がその財政状況に応じた生活をしている・・・というところまでは世界共通なのだろうけど、中世以降のイギリスでは「中流」と呼ばれる階級が世界で初めて生まれ、その階級の存在によってイギリスの階級マインドが誕生したのではないかと思う。

映画や小説を題材にしているのでとっつきやすく、英国の階級が実際のところどうなのか、という疑問に応えてくれる良書。