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2008年12月30日

天皇の玉音放送 - 小森陽一


Title: 天皇の玉音放送 (朝日文庫)
Author: 小森 陽一
Price: ¥ 1,050
Publisher: 朝日新聞出版
Published Date:

「天皇の玉音放送」から始まった戦後と、その「戦後」がどういった経緯で作られていったかを天皇とマッカーサーの会話記録などを使って掘り下げていった本。

天皇の玉音放送というと「絶えがたきを絶え・・・」という節が有名だけど、今回初めて全文を読んでみてその時代錯誤かつ「敗戦」を認めない姿勢に驚かされた。ポツダム宣言~原爆投下の間、天皇とその側近が気にしていたのはいかにして三種の神器を守るかということだったり、原爆が落とされてからの対応も救いようがなく遅い。まぁ、国に限らず組織のトップなんてみんなそんなもんなんだろうけど・・・。

天皇を免責にすることで安全に日本を統治したかったマッカーサーと、どうにかしてでも天皇を救いたかった日本人の利害が一致したことによって生まれたのが「象徴天皇」であり、「憲法9条」だったのかなぁと思った。

2008年12月29日

階級にとりつかれた人びと - 新井潤実


Title: 階級にとりつかれた人びと―英国ミドル・クラスの生活と意見 (中公新書)
Author: 新井 潤美
Price: ¥ 735
Publisher: 中央公論新社
Published Date:

英国の階級システムの特異さ。
特にミドルクラスのそれについて論じた本。

ミドルクラスという階級の成立からロウアーミドルクラスの勃興。さらに、同じクラスの中でも絶妙な上下関係が存在することなど、英国文化に長いこと触れてきた著者にしか書けない知識が詰まっている。

2008年12月23日

不機嫌なメアリー・ポピンズ - 新井潤実


Title: 不機嫌なメアリー・ポピンズ―イギリス小説と映画から読む「階級」 (平凡社新書)
Author: 新井 潤美
Price: ¥ 798
Publisher: 平凡社
Published Date:

現代の英国においてもまだ存在する「階級(=クラス)」を小説や映画から読み解いた本。

喋る言葉から住む家、飲むお酒から楽しむスポーツまで、何から何までが異なる英国における「階級」は、ほぼ全ての英国人が意識せざるをえない重大事項。アッパー・クラス(貴族)とワーキング・クラス(普通の人)までは分かりやすいからよいとして、英国における階級を決定的に特徴づけているのはアッパーとロウアーに分断されたミドル・クラスの存在。

ミドル・クラスは、英国が豊かになり始めた時代に一財産を作ったワーキング・クラス出身の富裕層によって確立された階級で、典型的に「ジェントルマン」と呼ばれる。これは、いわゆる本物の「ジェントルマン」を規範としつつ、どうあがいても本物のジェントルマンにはなれない彼らに対する蔑称でもあったのだそう。

裕福な商家や企業家、それに名誉的な職業(弁護士、医者)に就いている貴族の次男、三男などによって形成されたミドル・クラスがひとつの社会集団として認知されていったのに対し、ビクトリア時代の都市部で労働者階級からの脱却を計った人々は典型的にロウアー・ミドル・クラスと呼ばれた。彼らは主に都市部におけるホワイトカラーとして働き、いわゆる労働者階級とは異なる生活様式と価値観を持ちながらも、「確立されたミドル・クラス(=アッパー・ミドル・クラス)」にはどうしても届かない身分であった。

英国の階級をややこしくしているのが、財産や教養、それに結婚などによって階級間(特にミドル・クラス)を移動することができる、という状況。インドのようなカースト制であれば、階級はその出自によって決まるからどうしようもないけど、自分の才覚や努力によってより「恵まれた階級」に身を置くことができる可能性が開かれているという事実は、より一層彼らの「階級に対する強い興味と自覚」を促したのではないかと思う。

結局の所、こういった階級分けはいわゆる「文化のサンスクリット化」的状況に他ならない。財産や土地を持っている人がより優雅な生活を送っていて、持ってない人がその財政状況に応じた生活をしている・・・というところまでは世界共通なのだろうけど、中世以降のイギリスでは「中流」と呼ばれる階級が世界で初めて生まれ、その階級の存在によってイギリスの階級マインドが誕生したのではないかと思う。

映画や小説を題材にしているのでとっつきやすく、英国の階級が実際のところどうなのか、という疑問に応えてくれる良書。

臨床瑣談 - 中井久夫


Title: 臨床瑣談
Author: 中井 久夫
Price: ¥ 1,890
Publisher: みすず書房
Published Date:

サラッとした表現の中にドキッとする深さのある本。
身体のことや、病気のことに関する、中井久夫さんならではの様々な知見が詰まっている。

いわゆる医学的に推奨されているものとは異なる療法が紹介されていて、鼻にメンソレータムを塗ったりとか、プロポリスを飲んだりとか、乳酸菌飲料を飲んだりとか、質の高い睡眠を取るための方法とか、民間療法的な「知恵」のオンパレード。

丸山ワクチンのことは初めて知ったのだけど、なかなか面白い経緯を辿った薬のようだ。もし知人が癌にでもなったら勧めてみようかな。縁起でもないけれど・・・。
http://birthofblues.livedoor.biz/archives/50709310.html

2008年12月17日

エネルギー代謝を活かしたスポーツトレーニング - 八田秀雄


Title: エネルギー代謝を活かしたスポーツトレーニング
Author: 八田 秀雄
Price: ¥ 1,890
Publisher: 講談社
Published Date:

体を動かすエネルギーがどのようなサイクルで生成され、体内を巡り、使われているかを素人でも分かるように解説した本。

グリコーゲンと脂肪の関係、「乳酸が溜まる」ということ、速筋と遅筋の違い、LT(乳酸性作業閾値(ATとほぼ同義))や最大酸素摂取量の意味などなど、自分の中で曖昧だった色んなものがクリアーになって、超スッキリして気分爽快。瞬発系スポーツから持久系スポーツである自転車にハマり始めている自分には、大変ナイスな本だった。

結論から言うと、持久力系スポーツで強くなるには

- LT(AT値)近辺での時間をかけたトレーニング (=LSD)
-> 速筋の酸化能力を高める(ミトコンドリア量を増やす)
- 最大摂取酸素量を増やすトレーニング
 -> 呼吸循環能力を伸ばす(限界はある)

の組み合わせが基本とのこと。
LSDばっかりやってても駄目ってことですね。

トレーニングに限らず、ロングライドをいかにバテずに走りきるかといったことを考える上でも、自転車馬鹿には最適な本。

2008年12月07日

放浪記 - 林芙美子


Title: 放浪記 (新潮文庫)
Author: 林 芙美子
Price: ¥ 780
Publisher: 新潮社
Published Date:

これは・・・面白い本!
会社の同僚のブログで紹介されていて、気になったので手に取ってみたのだけどメチャメチャ面白かった。
林芙美子さんは大正時代の作家で、「放浪記」はまだ女性の社会進出がほとんどなされてなかった時代に、貧困と飢えに悩まされながら文章で生きるべく四苦八苦する著者の姿が綴られた日記。

大正時代の東京の雰囲気や、庶民の暮らしぶりが密度の濃い文章を通じて伝わってきて、強い印象を残す。「**なり」という特徴的な語尾が面白い。たった100年くらいまで、日本はこんなにも貧乏な国で、みんな逞しく生きていたのだなぁ、と思う。

大変充実した読書体験だったので、林芙美子さんの他の作品が読みたくなった。

「アメリカの小麦戦略」と日本人の食生活 - 鈴木猛夫


Title: 「アメリカ小麦戦略」と日本人の食生活
Author: 鈴木 猛夫
Price: ¥ 2,310
Publisher: 藤原書店
Published Date:

戦後の日本人の食生活がいかに急速に変化したかについて論じた本。

この本によれば、戦勝国であるアメリカで小麦が余り、余った分を戦略的に日本に売り込んだ結果として、学校給食の実施(パン食+牛乳)や、家庭への洋食の浸透が繋がった・・・、という経緯があったのだそうだ。アメリカはアメリカの正義のためなら何でもやる、という好例ですなぁ。

当時日本側で洋食を推進した人たちはよかれと思ってやっていたのだろうけれど、結果として自給率の低下と欧米人に多い病気が増えたり・・・と今になってみると、よいことばかりではなかったことが分かる。

著者の言う、食文化は長い時間を経てその土地に根付いたものだから、目先の「科学的」で「先進的」な食生活にスイッチすることに大きなリスクがある、という説は大変もっともなことだと感じる。

白米ばかり食べていると、食物繊維が不足して脚気になる。庶民でも普段から米が食べられるようになった江戸後期~明治~大正にかけて、日本人は大いに脚気に悩まされたのだそう。日清戦争における死者のうち、先頭による死者よりも脚気による死者のほうが多かった、という事実は初めて知った。より戦闘が激しかった日露戦争においても、兵士の間の脚気が解消されることはなかったのだそうだ。

玄米(あるいは胚芽米)にみそ汁、それに漬物という古典的な日本人の食事は、なかなか理にかなった食事なのだなぁ、と思った。
玄米は圧力鍋がないと辛いけど、胚芽米なら既に食べてる。
さらに我が家には自家製味噌があるので、あとは漬物を作るようになるとよい感じですな。

2008年12月04日

自転車で遠くへ行きたい。 - 米津一成


Title: 自転車で遠くへ行きたい。
Author: 米津 一成
Price: ¥ 1,365
Publisher: 河出書房新社
Published Date:

いわゆる「ロングライド」の魅力が詰まった本。単行本だけど文字も大きいので1時間くらいで読めちゃう。

スポーツ自転車の爽快さ、100kmが楽に走れること、200kmもなんとかなること、300kmを越える世界があることなどなど、スポーツ自転車に興味のある人なら誰もが楽しめる内容になっている。人力で長大な距離を移動できる快感は、ロードレーサーの魅力のうちのひとつだと思うから、誰に対してもアピールするのだと思う。

著者も自転車にハマりすぎて色んな点でおかしくなっている人なので、同じくおかしくなってる人間として、大変楽しく読むことができた。

ブルベは自分の趣味に合わないけれど、東京~糸魚川は、面白そうだから走ってみたいなぁと思った。