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英雄なき島 - 久山忍

ノンフィクション


Title: 英雄なき島―硫黄島戦生き残り 元海軍中尉の証言
Author: 久山 忍
Price: ¥ 1,680
Publisher: 産経新聞出版
Published Date:

硫黄島の戦いで生き残った海軍中尉の記録。
タイトルが示しているとおり、硫黄島での日本軍の戦いが「善戦」だとか「有効なゲリラ戦」とはかけ離れた悲惨なものであったことが綴られている。

水も食料も乏しい中で防空壕と陣地を掘り、病に倒れ、圧倒的な敵の攻撃に晒され、まとまった戦闘が終結した後も生き続けるために敵の食糧を拾い、防空壕を転々とし続けていった日本兵達の姿はとにかく衝撃的。硫黄島での日本軍の戦いや、戦時中の出来事を美談化する最近の風潮に危機意識を持たれたのだろう、戦争がいかに惨めで情けなくて、人間を人間以下の存在にしてしまうものか、ということが徹底的に描かれている。

有名な西中佐のエピソードが作り話であるとか、図らずも米軍に壊滅的な被害を出すことに成功したロケット爆弾などの話はなかなか興味深い。何かにつけて褒め称えられる栗林中将が、現場のことなんてろくに見てない指揮官として描かれているのも、あながち間違ってないのだろうなぁ、と思う。会社でも何でも、組織の上に行けば行くほど現場のリアリティーから離れてしまうものだし、そういう観点から見ると、栗林中将はまだ比較的「マシ」な人だったのかなぁ、とかそういうことになるのではなかろうか。

ところで、こういった激戦地で生き延びた方には共通のものがあるように思う。それは、危険を事前に察知して行動に繋げる勘と、その危険から逃れることができる運だと思う。戦争という場所であれ、現実社会であれ、生き延びるために必要なスキルには大差はないのではないかと思う。

元中尉があとがきで書いているとおり、この本に書かれていることが100%の真実だとは思わない。それでも、時代の雰囲気や風潮の中で脚色されたものの裏に、どういった真実が転がっているのかを考えるために優れた資料であり、意見が詰め込まれた本だと思った。