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私の身体は頭がいい - 内田樹

エッセイ・対談


Title: 私の身体は頭がいい (文春文庫)
Author: 内田 樹
Price: ¥ 600
Publisher: 文藝春秋
Published Date:

長らく積読状態になっていたので、引っ張り出して読んでみた。
最近の内田樹さんの本は、ブログからの切り貼りだけで構成されているものが多くてションボリなことが多いのだけど、この本はそれなりにテーマがまとまっていて、なかなか読ませる内容となっている。

内田樹さんが長年取り組んでいる合気道を軸に、武道の真髄ともいえる「不射の射((c)中島敦)」的な悟りについての自説を存分に披露している部分がメイン。この中でも、戦前、戦後の日本の柔道が辿ったスポーツ化の歴史と経緯についての解説が大変興味深かった。スポーツ全般どころか文化・学問全てに関して言えることだけど、日本はもういい加減欧米の呪縛から解き放たれてもいいんじゃないかなぁ、と思う。

スポーツがフェアーな競争であるなんてのは幻想に過ぎない訳だけど、その建前を守る努力を前提にして一生懸命やるから面白いわけであって、その一生懸命やる原動力のひとつが勝敗なのだと思う。とかく勝ち負けにこだわることが大好きな日本人は、もう一度スポーツや武道が持っている価値や意味について深く考えた方がよいのではないかと感じた。

面白かった部分を引用:

武道的な「強さ」あるいは「速さ」というものは、物理的に定量できるものではない。そうではなくて、通常の人間の意識や感覚では「記号的に文節することのできな」動きを、武道は「速い」動き、あるいは「厳しい」動きとみなすのである。(P.113)

「響き」とは複数の震動体・発音体が、それぞれ決して互いを否定せず、阻害せず、統制せず、ただ、互いの音を受け止め、享受し、装飾し、支えることに「我を忘れた」ときに、発音体同士の「あいだ」に発生する「誰の所有にも帰属しない和音そのもの」のことである。(P.207)