« 2008年07月 | メイン | 2008年09月 »

2008年08月30日

世界最悪の旅 - アプスレイ チェリー・ガラード


Title: 世界最悪の旅―スコット南極探検隊 (中公文庫BIBLIO)
Author: アプスレイ チェリー・ガラード
Price: ¥ 880
Publisher: 中央公論新社
Published Date:

ノルウェイのアムンゼン隊と壮絶な南極点への一番乗り争いをした挙げ句1ヶ月差で遅れて南極に到着し、その帰途でブリザードで進退窮まって最期を遂げたスコットの隊に同行していた若き科学者チェリー・ガラードによる南極探検記。

チェリー・ガラード自身は極点を目指すチームには加わらなかったものの、スコットが残した日記やその他の情報から、スコット隊が行った南極探検を忠実に再現している。
律儀に全部読むとあまりにもボリューミーなので、面白そうな所だけをピックアップして読破した。

本の題名である「世界最悪の旅」とは、彼と2人の仲間(この2人は極地隊に同行してスコットと共に帰らぬ人となった)と共に行った冬季のソリ旅行のこと。当時唯一知られていたペンギンの繁殖地を目指して出発し、24時間の暗闇の中で死と隣り合わせになりながら人類で初めてペンギンの繁殖を観察することに成功した(卵も持ち帰った)。

何しろ第一次大戦前の20世紀初頭のことだから、装備があまりにも貧弱で、計画もアバウト。もともと何が起きるか分からない南極だから、かなり余裕を持った行動・計画が必要とされる中で、ギリギリのところを攻めて結果を求めようとし過ぎたところヶ合ったように感じられた。

2008年08月26日

家族の昭和 - 関川夏央


Title: 家族の昭和
Author: 関川 夏央
Price: ¥ 1,575
Publisher: 新潮社
Published Date:

「家族」という名の共同体の解体が急速に進んだ「昭和」にスポットを当てた本。

向田邦子『父の詫び状』、吉野源三郎『君たちはどう生きるか』、幸田文『流れる』といった、昭和の家族像をよく描いた(と思われる)作品と、それが生まれたプロセスをつぶさに眺めることで、それぞれの時代に存在していた家族のあり方のようなものを再構築しようとしている。

幸田文さんに関する部分が個人的には一番面白かった。
親の本棚から「父・こんなこと」や「みそっかす」を借りて読んだ時の記憶がありありと浮かんでくる。共同体としての家族の生活を維持するための「家事」のプロフェッショナルとして、そしてその家族にとっての求心力として機能した人の記録は、何ともいえないリアリティーがあって面白い。

小津安二郎監督の映画に関する記述や、自分が通っていた学校に関する記述もあったりして、なかなか楽しい読書だった。

2008年08月20日

COLNAGO Forever


Title: COLNAGO Forever―レースとともに歩む永遠の名車コルナゴ (ヤエスメディアムック 199)
Author:
Price: ¥ 1,785
Publisher: 八重洲出版
Published Date:

前に「カンパニョーロ完全読本」を買った時に“この手の本は二度と買うまい”と心に誓っていたはずなのだけど、「コルナゴがジャイアント資本になるかも?」という噂を聞いてついつい手を伸ばしてしまった。
・・・反省・・・。

COLNAGOの歴史にはじまり、イタリアの工場でのフレーム製造のプロセス、歴代の名車などなど、コルナゴという自転車レースに深くコミットしてきたメーカーの姿に迫っている。
コルナゴファンなら一通り読んで楽しめると思うけど、それなりに思い入れがないと30分後には本棚に仕舞われて、その後未来永劫開かれない本になってしまうような気がする・・・。

この本のよいところは、(運がよければ(?))4,5年後くらいになってコルナゴがダメダメになった頃に高値で売れる可能性があるってことくらいかな。まぁ、いちコルナゴユーザーとしてはそうなって欲しくはないのだけれど・・・(お金があったらC-50かEXTREME POWERが欲しいよぉ)。

2008年08月19日

潜水服は蝶の夢を見る - ジャン=ドミニック・ボービー


Title: 潜水服は蝶の夢を見る
Author: ジャン=ドミニック ボービー
Price: ¥ 1,680
Publisher: 講談社
Published Date:

最近見た映画の原作本。
フランスの「ELLE」誌の編集長として華やかな世界の第一線で活躍していた著者は、ある日を境にロックトイン・シンドロームと呼ばれる身体全体が麻痺状態になってしまう症状に冒されてしまう。
まばたきだけで"YES"と"NO"のメッセージを発し、特殊なアルファベットを用いて精神的に100%正常な彼のメッセージを汲み取って“書かれた”のがこの本、というわけ。

原題は"Le Scaphandre et le Papillon"(潜水服と蝶)で、潜水服とは彼を物理的に閉じこめている身体的条件のこと。その潜水服とは無関係に、ヒラリヒラリと精神世界・物理世界の間を分け隔てなく飛翔する「心」を蝶に例えている。

映画もなかなか面白かったのだけど、それ以上にこの本は素晴らしいと思った。
潜水服に閉じこめられて、何から何まで自由が利かない状態の中で、周りの出来事を観察する著者の視線はフェアーな優しさに満ちていて、紡ぎ出される言葉は豊かなウィットに溢れている。

2008年08月12日

Paris-Roubaix: A Journey Through Hell


Title: Paris-Roubaix: A Journey Through Hell
Author: Philippe Bouvet, Pierre Callewaert, Jean-luc Gatellier, Laget Serge
Price: ¥ 3,893
Publisher: Velopress
Published Date:

毎年春にフランスで行われる自転車レース、「パリ-ルーベ」の写真集。

「クラシックの女王」とも、「北の地獄」とも称されるこのワンデークラシックレースでは、後半部分に入ってからの石畳(パヴェ)の走行がレースの勝敗を左右する鍵となる。これは、自動車が普及する前のいわゆる「農道」というやつで、デコボコしているとかそういうの以前に水たまりがあったりドロドロだったりでほとんどオフロード。そんなところを細いタイヤのロードレーサーで駆け抜けてレースをしようというのだから、面白くないわけがない。

100年以上前から行われているレース模様や、勝者・敗者の姿がたくさん収められていて、パリ-ルーベが昔からタフなレースであったことがよく分かる。
ハードカバーの立派な本なので、手元に置いといて暇な時にパラパラ見るのによい感じ。

タンノイのエジンバラ - 長嶋有


Title: タンノイのエジンバラ
Author: 長嶋 有
Price: ¥ 1,400
Publisher: 文藝春秋社
Published Date:

相変わらず、なんとも言えない緩さが素敵な小説。
ぼ~っとしているようでいて、実はとってもよく物事のありかたを観察して、それを上手に表現しているように思う。
ほんのりと落ち着く気分になると同時に、ちょっとくすぐったいような、なんとも言えない気分にさせられる話が詰まっている。

ちなみに、「タンノイのエンジンバラ」というのは実在するイギリスのスピーカのメーカ&モデルの名前。タンノイのスピーカは、イギリスのメーカーらしいどっしりとした家具っぽい雰囲気のものが多くて、なかなか素敵。
岡山の友人宅のリビングにあるものを見たことがあるけど、アンプが壊れていて聴けなかったような記憶があるなぁ。

2008年08月08日

私の百人一首 - 白洲正子


Title: 私の百人一首 (新潮文庫)
Author: 白洲 正子
Price: ¥ 500
Publisher: 新潮社
Published Date:

百人一首は子供の頃から親しんでいたけれど、その背後にこんなにも魅力的な世界観があったなんて知らなかった。
百人一首が選ばれるようになった経緯や、日本の文化に和歌が与えてきた影響、それに平安時代から鎌倉時代へと時代が下っていく中で、和歌やその他の文化が変移していった経緯などなど、とても面白い読書体験だった。
逆に考えると、いかに自分が日本の歴史や文化に疎いかがよく分かってしまった・・・と言うこともできるのだけれど・・・。

北アルプスの縦走に持っていって、お昼寝のお供という感じでじわじわ読んでいったのだけど、大自然の中で雅な気分に浸れるナイスなセレクションだったと思う。
何度読み返してもなんともいえない余韻が残る、素敵な本。