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死刑 - 森達也

ノンフィクション


Title: 死刑 人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う
Author: 森達也
Price: ¥ 1,680
Publisher: 朝日出版社
Published Date:

映画監督・ノンフィクション作家の森達也さんが「死刑」という制度と現場に取材し、自らが考えたこと・感じたことを綴った本。

死刑が確定した囚人や弁護士、囚人と日々顔を合わせたり執行に立ち会う刑務官、そして被害者の遺族に出会い、話を聞き、意見を交わすことで、著者の「死刑」という制度に対する考え方が揺らいでいく姿がリアルに描かれている。

結局、森達也さんの「死刑制度にへの反対」という立場が変わることはないのだけれど、取材を通じて出会った人たちが語る「死刑」が巷で騒がれているような表層的な議論だけで済むようなものではないのだな、ということがよく分かった。

それにしても、「死刑」というテーマは考えれば考えるほど分からなくなる。
「犯罪」は、個人的な行為であると同時に社会的な行為でもある。
ピュアに個人的な行為であれば、当事者だけで決着をつけることができるかもしれないけれど、現実的にはひとつの「犯罪」は周りにいるたくさんの人に少なくない影響を与える。
人が死んでしまう「殺人」であれば、なおさらのことだ。
人が死んで、いなくなってしまえば全ての可能性が葬り去られてしまう。

直感的に「国の制度として人を殺すこと」に対する疑問はある。
と同時に、何をもってして「殺人」という行為に対するペナルティーを課すのか、という問題もある。最期のほうに出てくる遺族の「仮に加害者が改心したとしても、被害者の遺族が救われることはない」という言葉はただただ重い。「死刑も止むを得ないのかもしれないな」なんて考える自分もいる。

普段考える機会のないテーマだからこそ、こういったエクストリームな話題を通じて現場のリアリティーに触れることは貴重な機会だと思う。

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森達也さんのことは、前に見た「いのちのたべかた」というドキュメンタリー映画の上演前のトークショーで知った。
この映画は彼の作品ではないけれど、「いのたのたべかた」という邦題は、彼の手による同名の本から取られたものなのだそうだ。