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「人間嫌い」のルール - 中島義道

エッセイ・対談


Title: 「人間嫌い」のルール (PHP新書)
Author: 中島 義道
Price: ¥ 735
Publisher: PHP研究所
Published Date:

「人間嫌い」による「人間嫌い分析」。
あるいは、「人間嫌いとして生きる方法あれこれ」。

中島義道さんの本は、「うるさい日本の私」とか「「対話」のない社会」を読んで共感するところが多かった。この本には、上記の本に書かれていない、著者がいかにして「人間嫌い」になったかという経緯と、徹底した「人間嫌い生活」の一端が紹介されている。

本書の要点をまとめてしまうと、「人間嫌い」と言われている人たちはただ純粋に「人が嫌い」なのではなくて、「人は全て異なる価値観を持っているから、社会的慣習に基づいてその価値観を肯定したり否定したりするのはやめて欲しい」と考えている人たちなのですよ・・・、ということなのかなぁ、と思った。

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「共感ゲームから降りる」とか「他人には何も期待しない」とか、社会一般的な通念から考えると「なんてことを!」っていうことばかりが書かれているけれど、書いてる本人は大まじめ。

人は「誰かと一緒に「共感」する」ことを好む。
「共感」は、人の快楽神経を強く刺激するからだ。
「人は一人では生きられない」とは言うけれど、こういった神経回路は人の社会的生存率を上げるために発達したものであると推測できる。

問題は、「文化」という名のものとに過度に発達した「共感システム」と、それに基づく社会での「常識」に対して違和感を抱いてしまう人が*現実的に*いる、ということなのだと思う。
そういう意味で、この人の主張やライフスタイルは内田樹さんなんかと正反対であるような気がする。

人間嫌いとは「他の人に対する期待値が高く、いつも期待はずれな結果になることに疲れた人」と言うこともできるのかもしれない。著者の場合は、ヨーロッパでの生活によって日本における密着した人と人との距離感に違和感を感じてしまったのが決定的なターニングポイントだったのだろう。

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小さな頃から人と接することが苦手だった自分としても、こういった「人間嫌い」をテーマに色々と考えた時期があった。自分の中で辿り着いた結論としては、以下のようなものになる。

人と人とは本当のところでは分かり合えない。
これは仕方がない。
これをふまえた上で、どこまで人と人とが接近して生きていけばいいのか。
この点における「距離感」が「人間好き」と「人間嫌い」を分けているパラメータとなる。

・・・という感じ。

ちょうどこの本を読んでいる時期にテニスをしていて、自分のダブルスのパートナーに対するコミュニケーションが実に形式的なものばかりであることに気付いた。人との距離感が分からないから、とりあえず標準的な形で人と接することによって楽をしていたのかなぁ、と思う。
そう思った瞬間、背中にヒヤリと冷たいものを感じた。

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本書の中身とはそこまで関係ないけれど、引用されていたサルトルの言葉が印象的だったのでメモ

「創造的行為の目的は、若干の対象を創り出すことによって、あるいはふたたび創り出すことによって、世界の全体をあらためてわがものにすることである」