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京劇 - 加藤徹

文化・芸術


Title: 京劇―「政治の国」の俳優群像 (中公叢書)
Author: 加藤 徹
Price: ¥ 1,943
Publisher: 中央公論新社
Published Date:

初心者にも読みやすい京劇の本。
映画「さらば、わが愛~覇王別姫~」に感銘を受けて以来、京劇に強い関心を持ち続けていた自分にとって最良の本だった。

京劇の歴史に名を残す人物の生き様が丹念に綴られており、さらに各章の間に「幕間戯」という形で京劇の基本的な知識が上手にまとめられていて、なかなか読み応えのある本になっている。

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現在「京劇」と呼ばれている芝居の形が成立したのは、今から約200年前。乾隆帝の治世の末期である1790年に、安徽省の高朗亭が彼の一座を率いて北京にやってきて好評を博し、安徽省のお隣の湖北省からも劇団が北京にやってくるようになり、その地で影響を及ぼしあって京劇の原型を作り上げた。

中国の各地で楽しまれていた地方劇が北京にやってきて、様々な演劇手法が絡み合うことで成立した「京劇」は、元々民による民のための娯楽だった。この「民へのコミュニケーションチャネル」は、皇帝の玩具として、あるいは為政者による広告塔として、さらには「忌むべき古い中国の象徴」として、様々な形で激動する中国の近代史に揉まれ続けた。

極論してしまえば、京劇が歩んできた約200年間は、乾隆帝の治世である清の絶頂期から、欧米・日本の侵略による「失われた」100年間を経て、国共内戦と文化大革命へ突き進んだ中国の近代史そのものと言うことができるのだ。

江戸時代の歌舞伎も常に幕府からのプレッシャーを受け続けた訳だけど、「政治の国」中国の京劇は、そういった「プレッシャー」とは質的に全く異なる影響を現実社会から受け続けた。

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京劇という芝居のあり方や変移の仕方には、中国という国の面白さがそのまんま現れているような気がして、刺激的かつ楽しい読書体験になった。
晩年の毛沢東が「古典京劇」を見ることを望み、秘密裏に古典京劇が映像として残されたというエピソードがなかなか印象的。