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2008年03月28日

ラカンはこう読め! - スラヴォイ・ジジェク


Title: ラカンはこう読め!
Author: スラヴォイ・ジジェク
Price: ¥ 1,890
Publisher: 紀伊國屋書店
Published Date:

内田樹さんのブログで紹介されていたので読んでみた。
ラカンに関しては「生き残るためのラカン」が面白かったこと以外よく分かってない素人で、彼が言い出したナゾナゾのような言葉や表現はあまりよく分かっていない・・・。

フロイトやユングの心理学は、人が色んな局面でどういう風に感じたりするのかとか、その人のそれまでの経験がどういう風にしてその人を作り上げたのか、といったことを考えるツールとしてなかなか優れたツールになる。

そして、自分の理解が正しければ(無知を承知で言ってしまうと)、ラカンと言う人は、フロイトが発見した「人間の心の中に横たわっている巨大で掘り尽くすことのできない鉱脈」を掘り出すことを通じて、心理学的アプローチの射程範囲を哲学的なフィールドにまで広めた人なのだと思った。

この本では、ラカンの理論を直接的に扱うのではなくて、現代を生きる我々から見える色んなものについて、彼の理論を通じて考えてみよう・・・!という、入門者に優しいやり方を採用してくれていて、なかなかフレンドリーな本だと思った。

2008年03月25日

嗤う伊右衛門 - 京極夏彦


Title: 嗤う伊右衛門 (角川文庫)
Author: 京極 夏彦
Price: ¥ 580
Publisher: 角川書店
Published Date:

「四谷怪談」のバリエーションかな~と気軽に読み始めたら、あまりのオリジナルっぷりにびっくりしてしまった。

京極夏彦さんの本を読むのは初めてだったけれど、文章が素晴らしく上手だなぁ、と思った。そして、何よりも四谷怪談を愛憎入り乱れる複雑な恋愛物語として練り上げてしまう想像力もすごい。

2008年03月16日

ポピュラー音楽と資本主義 - 毛利嘉孝


Title: ポピュラー音楽と資本主義
Author: 毛利 嘉孝
Price: ¥ 1,890
Publisher: せりか書房
Published Date:

面白い本!
充実した読書体験だった。

アドルノによるポピュラー音楽批判をベースに、ここ100年くらいの間に絶えず変化を続けてきた「消費される」音楽と、それを受容し、商品化し、再生産していく社会に対して鋭い眼差しを向けている。

アカデミカルにポピュラー音楽を研究しているのだけれど、難しさをできるだけ排除してあって読みやすく、議論されている内容がどれも興味深い。

いわゆるステレオタイプな見方に対して強烈に「ノー」を唱えつつ、ポピュラー音楽というものに対して沢山の視点を提供してくれる、非常に刺激的な本だと思う。
音楽好きな人なら、すごく楽しく読めるはず。

2008年03月12日

ネットで人生、変わりましたか - 岡田有花


Title: ネットで人生、変わりましたか?
Author: 岡田 有花, ITmedia News
Price: ¥ 1,680
Publisher: ソフトバンククリエイティブ
Published Date:

面白い本!
ITmedia の記者さんが、ネット界隈の面白そうな人に突撃取材して、その人がネットやコンピュータを通じてどういう風に成功したり、失敗したり、影響を受けてきたかを読みやすくまとめている。

会社を興したり、新しいサービスを提供したり、ひたすら変なことをやり続けたり・・・、色んな表情を持った「人」がいて、色んなことをやっている「人」の姿が印象的だった。

やはり、ネットで何か面白いことをやっている人は、素晴らしいスキルや経験以上に、人として「何がしたかったか」とか、そういった点でユニークな自分を貫いている人が多いのだなぁ、と思った。

2008年03月09日

寄席囃子 - 正岡 容


Title: 寄席囃子―正岡容寄席随筆集 (河出文庫)
Author: 正岡 容
Price: ¥ 819
Publisher: 河出書房新社
Published Date:

寄席と落語を愛し、戦前、戦中、戦後に渡って落語界のご意見番として多くの名人に影響を与えた著者によるエッセー集。
著者は、小沢昭一さんのお師匠さん。

まずもって、著者の落語に対する知見が素晴らしい。
鋭い観察眼でもって今の我々から見て「歴史上の名人」の落語を批評していて、面白い。

さらに、彼の青春、というよりも、人生と共にあった「落語」というものを通じて、彼の生きた時代や過ごした空間、そして彼が感じたリアルな感情が伝わってくる自伝的な文章「わが寄席青春録」もとてもよかった。

なんというか、落語というものがある時代には今よりも身近で、ホットで、寂しくて、一部の人たちの生活の中に溶け込んでいたことがよく分かる、素敵な本だった。

2008年03月05日

毎日が冒険 - 高橋歩


Title: 新装版 毎日が冒険
Author: 高橋 歩
Price: ¥ 1,365
Publisher: サンクチュアリ出版
Published Date:

「とにかくやってみよう」がキーワードの本。
カウボーイ志望だった高校時代に始まり、大学時代のストリートでの弾き語り、ピザ屋のバイト、怪しい成功哲学合宿、バーテンダー、イルカとサイババ、そして出版社の立ち上げ・・・。

その場の勢いとノリで色んなことをやり遂げてしまう著者のパワーに圧倒されて、「自分もやってみるか」という気分になってくる本だと思う。
実際、みんな「やってみないと」とは言うけれど、とことんまでやることはできていないことが多いのだよね・・・。

2008年03月04日

変わる家族 変わる食卓 - 岩村暢子


Title: 変わる家族 変わる食卓―真実に破壊されるマーケティング常識
Author: 岩村 暢子
Price: ¥ 1,890
Publisher: 勁草書房
Published Date:

1960年以降生まれの主婦を対象とした、家庭の食卓調査を通じて現代の家族の食生活の姿の変移を分析した本。

「朝からカップラーメン」とか、そういったアリエナイ食生活を紹介して読者を驚かして問題提起をする・・・といったありがちな展開に終始するのではなく、あくまでクールな視点から、家庭の食卓という現場を通じて現代の家族の姿や、それを取り巻く社会の変化に厳しい視線を向けていて、興味深く読めた。
まともな食生活を送らなければと思いながらも、ついつい楽な選択をしてしまう自分にとっては、実に耳が痛くなる本でもある。

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問題は、昔ながらの食生活が必ずしも「正しい」わけではない、ということなのだと思う。栄養をある程度考えて献立を考えて、まめに買い物をして、おかずを何品か準備して・・・といった手間は、それが身に付いていなければ実践することは(ほとんど)無理だし、ちょっとやそっとの努力で身に付くものでもない(逆に言うと、こういった基礎体力を身につける、ということには金銭的な価値以上の価値がある)。
核家族化が進んで、家族の人数が3人とか4人とかになって、いくらでも回りに楽をできる手段が転がっていたときに、あくまでもストイックにそういったやり方を維持することを多くの人に求めることはできないのだろう。

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社会のあり方の変化によって、家族の形や食卓の姿が変化を余儀なくされるものである、ということは間違いない。だけど、家族や食卓といったアナログで身体的なものは、そういった大きな変化に対して、見えないところからジワリジワリと変わっていって、いつの間にか全く異なったものになってしまうのだと思う。数値化できたり、目に見えたりするところだけで「よい」と判断してしまうことの危うさは、常に意識しておくべきなのだと感じた。
こういった時に、一番信頼できるのは、身体的で、アナログ的な感性なのだと思う。

食生活で起きている変化から透けて見えてくる「対話のない家族」だったり、「ネタでしかつきあえない人たち」の姿は、自分とは全く無関係ではなく、色んなことを考えさせられる読書体験だった。