« 知識無用の芸術鑑賞 - 川崎昌平 | メイン | 風邪の効用 - 野口晴哉 »

恐るべき空白 - アラン ムーアヘッド

ノンフィクション


Title: 恐るべき空白 (ハヤカワ・ノンフィクション・マスターピース)
Author: アラン ムーアヘッド
Price: ¥ 2,415
Publisher: 早川書房
Published Date:

優れたノンフィクション。
19世紀中頃、オーストラリアがまだまだ発展途上の「開拓地」だった時代に、誰も足を踏み入れたことのないオーストラリア中央部に広がる地図上の空白を越えて、大陸縦断を成し遂げた探検家達の物語。

もしこの探検家達の計画が予定通り進み、万事うまくいっていたとしたら「バークとウィルズ」という名前もここまで有名になることはなかったのだろう。

残念ながら、バークは駄目なリーダーの典型で、なんとなくコトがうまく運んでいるように見えて、大事な局面で致命的なミスを犯して自滅してしまう・・・というタイプ。特に、人事の面でそれが顕著で、ただでさえ安定していなかった指揮系統が乱れて、隊のまとまりがなくなってしまったのをそのままにして、自分だけで局面を切り開こうとして見事に失敗してしまう。

この物語が今もってその輝きを失わないのは、バークの駄目さ加減がそのまま人間らしさとして解釈されているからなのかなぁ、と思う。絶望的状況の中でも希望を失わず、残された仲間達と共に生き延びようとする姿が実に生々しくて、読んでいて胸が苦しくなった。

**

この手の探検もので、個人的に好きなのが「エンデュアランス号漂流」という本。第一次大戦の最中に南極横断を企てて失敗したアーネスト・シャクルトンの探検隊が物凄い困難を乗り越えて全員無事に帰還する物語なのだけれど、「恐るべき空白」を読みながら常にバークとシャクルトンとの行動の違いを意識してしまった。

MEN WANTED for Hazardous Journey. Small wages, bitter cold, long months of complete darkness, constant danger, safe return doubtful. Honor and recognition in case of success------Ernest Shackleton.

求む男子。危険な旅。わずかな報酬、辛い寒さ、何ヶ月間もの暗闇の日々、隣り合わせの危険、期待できない安全な帰還、成功の暁には栄誉と手柄-----アーネスト・シャクルトン