イスラーム文化 その根底にあるもの - 井筒俊彦
宗教・人類学
Title: イスラーム文化−その根柢にあるもの (岩波文庫)
Author: 井筒 俊彦
Price: ¥ 630
Publisher: 岩波書店
Published Date:
日本を代表するイスラーム学者である井筒俊彦による講演をベースにしたイスラーム文化入門。とても分かりやすい切り口から、イスラーム文化・イスラーム教の核心部を見事に切り出した名著。
人の目に付きやすい形式的な文化・宗教の側面にはほとんど触れず、イスラーム教がいかにしてイスラーム教となったか、イスラーム教が内在的に抱えている問題や、イスラーム教という宗教によって性格づけられているイスラーム文化、そしてイスラーム文化とは水と油の関係にあったアラビア的文化とがどうやって融合していったか、そしてシーア派やスーフィズムと呼ばれる主流から少し離れたところにある人たちに関する記述などが含まれており、実に中身の濃い本となっている。
イスラーム教を理解する上でポイントとして、
- 極めて厳格な一神教であること
- 「砂漠の宗教」というよりは「都市の宗教」「商人の宗教」であるということ
- (スンニー派に関して言えば)コーラン(聖典)とハディース(ムハンマドの言行録)と、これの解釈によって成り立っている「イスラーム法」(シャリーア)によって生活の隅々までが厳密にルール付けされていること
- 一神教である限り、他宗派に対しても寛容的な姿勢を持っていること
・・・といったあたりが挙げられるのではないだろうか。
コーランの中でも、その性格が大きく異なるメッカ期とメディナ期の違いや、コーランの成立過程、それにイスラム共同体の成立を助けた様々な文化的要因など、イスラーム文化を理解していく上で実に興味深い点がカヴァーされているのが素晴らしい。
イスラーム教にとってキリスト教やユダヤ教は、一神教という意味でも類似点があるし、同一のルーツを持っているにも関わらず、コンセプトレベルで完全に異なる性格を持っている、ということがよく分かる本だと思った。