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藤十郎の恋・恩讐の彼方に - 菊池寛

小説・詩集


Title: 藤十郎の恋・恩讐の彼方に (新潮文庫)
Author: 菊池 寛
Price: ¥ 500
Publisher: 新潮社
Published Date:

文芸春秋を立ち上げた、実業家であり、小説家でもある菊池寛さんの短編集。
とある廃墟系サイトで、江戸時代に人力で掘られた隧道に関する物語として「恩讐の彼方に」が取り上げられていたので、読みたくなって図書館で借りてみた。

淡々とした調子の平易な文章でありながら、状況描写や心情描写が実にリアルで、文章のうまい人だなぁ、と思う。「恩讐の彼方に」は、托鉢と勧進によって、大分県の山国川沿いの難所に、青の洞門と呼ばれる隧道を開削した、実在の僧をモデルとした物語。不義の恋から主君を殺してしまい、悪事を重ねていった挙げ句に改心して僧となり・・・という経緯は彼の創作のようだ。

「藤十郎の恋」は、和事の創始者とされる初代藤十郎の物語。近松門左衛門の手による大経師昔暦(溝口健二が映画化している「近松物語」)を初演するに至った藤十郎がいかにして「不義の恋」を演じる極意を掴んだのか・・・、という筋。さらっとして短い話だけど、物語に必要なエッセンスが上手に詰め込まれているので実に楽しく読めた。