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2007年10月25日

ラクダのコブのある自転車乗りになりたい - エンゾ・早川


Title: ラクダのコブのある自転車乗りになりたい
Author: エンゾ・早川
Price: ¥ 1,680
Publisher: 双葉社
Published Date:

共感できる部分が多い本。
著者が自転車にハマるようになるまでの半生記や、自転車遍歴とポジショニングの苦労話、そして彼が主催しているという「GIRO DI 箱根」なるプライベートな大会。そして、後半では自転車を通じて彼が経験・体得してきた人生論や宗教論が展開されている。

個性の強い人は、えてして強固な「自分流人生哲学」みたいなものを持っていることが多いけれど、著者もまさにそういったものを持っていて、この本の中で思う存分ぶっちゃらけている。

「ホリゾンタルフレームでシートポストが10cm以上出てるのがカッコイイ」とか、「コラムのスペーサーは25mmまでが許容範囲」とかの自転車系のネタはもちろん、自転車に直接関係のないあれやこれやの過激かつ雑多な話に関しても、普段から自分が考えているようなことにマッチすることが多くて楽しみながら読めた。

スペーサーに関しては、自分もつい最近になって35mmから20mmに落としたばかりだったので、妙に親近感を感じることができた。腰を立てた上で猫背にするポジションに関しても、もともと著者の本を読んで実践していたのだけれど、実際にすこぶる調子がよい。

著者が6年とか8年とかをかけて正しいロードレーサーのポジションを出したエピソードを聞く限りだと、自分のポジションに対する不満のなさはなんとも奇妙に思えてしまう。まだまだ熟成ができていないのかもしれないし、奇跡的にお店で出してもらったポジショニングがバッチリだったのかもしれない。

2007年10月22日

花と木の文化史 - 中尾佐助


Title: 花と木の文化史 (岩波新書 黄版 357)
Author: 中尾 佐助
Price: ¥ 735
Publisher: 岩波書店
Published Date:

実に魅力的な本。
人が長い時間をかけて繰り返してきた、自然にある植物に魅せられ、自然から切り離し、改良し、広め・・・という営みを概観しており、植物に関する知識のない人間でも興味が持てるように、面白い小話がたくさん詰め込まれている。

ヨーロッパで品種改良されたバラの花のほとんど全てが中国原産のバラを交配したものである、とか、チューリップはトルコが原産だとか、膨大な量の豆知識が溢れているのが素晴らしい。

現代において都会の人が目にしている「自然」がいかに人工的なものか、ということや、大航海時代にプラントハンターや名も無き水夫達が果たした役割、そしてヨーロッパに勝るとも劣らない花卉園芸文化を発達させていた江戸期のことなど、目から鱗が落ちるような読書体験だった。

2007年10月15日

古道巡礼 - 高桑 信一


Title: 古道巡礼
Author: 高桑 信一
Price: ¥ 2,100
Publisher: 東京新聞出版局
Published Date:

近代化とモータライゼーションによって滅んでしまった、「人」によって歩かれた「径」を巡る旅の本。開かれた平地にそういった道が保存されることは期待できないので、自然と著者による「古道」を巡る旅は、険しい山の中に分け入ったものが主になってくる。

古来より、近隣の村人や旅人、行商人や旅芸人が越えてきた峠。最盛期には小学校や郵便局まであったのに、今ではその痕跡を探すことさえ難しくなっているような山師達の村。つい数十年前まで、山菜やきのこを採るために使われていた、地元の人たちの径。
時間の流れの中で、作られ、知らされ、踏み固められ、壊され・・・といったプロセスを経て、今また静かに時間の流れの中に還っていこうとする、貴重な人類の遺産だ。

この本で著者が訪れているのは、東北地方や山間部に微かに残る、今にも自然に還ってしまいそうな「径」であり、その「旅」は多分に文化的であると同時にハードな山旅である。快適な山小屋が期待できるわけでもなければ、登山道という名の安楽な「道」がついているわけでもない。技術の進化や、自然環境の変化によって動的にその姿を変えてきた「径」は、名も無き人たちによる無言の声であり、生きた生活の足跡であり、現代人にとって容易に辿ることのできない魅力に溢れた「径」なのであった。