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反・キリスト―黙示録の時代 - エルネスト・ルナン

宗教・人類学


Title: 反・キリスト―黙示録の時代
Author: E. ルナン
Price: ¥ 2,520
Publisher: 人文書院
Published Date:

「イエスの生涯」がとても気に入っていて、本屋で偶然見つけたので迷わずゲット。忽那錦吾さんによるルナンの翻訳は、まさに現在進行形で進んでいるらしく、これは2006年の出版。

エルネスト・ルナンは19世紀のフランスの宗教史家で、キリスト教の歴史及びユダヤ人に関する研究で知られる。当時まかり通っていた非科学的な聖書解釈にメスをいれ、奇跡や超自然現象を抜きにイエスという人のヒューマニズムを褒め称えた「イエスの生涯」が有名。このほかにも、「イスラエル民族史」(日本語訳はまだ存在しない模様)や、「国民とは何か」などの著書がある。

この本の題名「反・キリスト」とは、キリストの死後にキリスト教会が発展していく最初期に壮絶な迫害を行ったローマ帝国の皇帝ネロのことであり、その時代に書かれた「黙示録」がいかにして成立したかが精緻な研究と文章によってまとめられている。

イエスの死後50年と経たないうちに、ユダヤ人の首都であり、心の拠り所である神殿を擁したイスラエルはローマ軍の総攻撃にあって壊滅し、ユダヤ人にとっての苦難の時代の幕開けとなる。この戦争については、ユダヤ軍の総司令官で、戦争の途中でローマ軍に捕まって有名な「ユダヤ戦記」で一躍後世に名を残すことになったヨセフスによってかなり詳しいところまでが知られている。

イエスの死後にローマ帝国の内外で起きた変化や、ローマに渡ったパウロによるイエス解釈(彼はイエス本人を知らない)と彼の手による教会の発展、そしてイスラエルで成長し、国難を避けてイスラエルを脱出したイスラエル教会の動向も合わせてよくまとまっており、この時代に関して考える際のよい道しるべとなる本だ。

現代における最新の研究成果とは多かれ少なかれ食い違う解釈も多いのだろうけれど、19世紀という時代にまとめられたキリスト教の黎明期に関する考察として、非常に価値のあるものだと感じた。