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長いお別れ - レイモンド・チャンドラー

小説・詩集


Title: 長いお別れ (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 7-1))
Author: レイモンド・チャンドラー
Price: ¥ 945
Publisher: 早川書房
Published Date:

村上春樹さんの新訳が出て、気になったので清水俊二さんの手による翻訳バージョンを読んでみた。

そういえば、「ライ麦畑でつかまえて」も全く同じ理由で読んだ記憶がある。村上春樹訳の本はあえて避けてみる、という行動にどういう意味があるのか分からないが、なかなか面白い本だった。

イヤミになりすぎない程度にクドく、ぶっきらぼうなようでいて神経質な文章。チャンドラー作品を読むのは初めてだけれど、読み始めてすぐに彼の文章と世界観の虜になった。
アメリカ西海岸の40/50年代的文化に対する愛着と嫌悪感が同居した描写が多く、カラッと乾いたハードボイルドなテイストと緻密な筋書きとが合わさって独特に魅力を作り上げているように思う。

この作品の一番の魅力は、なんといっても主人公フィリップ・マーロウの生き方、あるいは精神性だろう。儲からない私立探偵として細々と暮らしながら、気になったことには首を突っ込まずにはいられない。頼りなさげな雰囲気を持ちながら、自分の信念を貫くためならとことんまでやり抜く。格好悪さととびっきりの格好良さが同居した不思議な人格なのだ。

村上春樹さんの「羊をめぐる冒険」の「元ネタ」と言い切ってしまってもよいのではないか、と思うくらい類似点が多い。男二人の友情、強大な組織を持つ人間、慎ましい生活を送る主人公、友人を捜す旅、バーで酒を飲む描写、そして何よりもドライでウィットに溢れた文章。

なかなか好ましい作品だった。