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青べか物語 - 山本周五郎

小説・詩集


Title: 青べか物語 (新潮文庫)
Author: 山本 周五郎
Price: ¥ 540
Publisher: 新潮社
Published Date:

著者が若かりし日を過ごした、大正から昭和にかけての浦粕(現在の浦安)での日々の思い出を綴った作品。

この本を読もうと思ったのは、川島雄三監督による同名の映画がきっかけ。フィルムの中を活き活きと動き回っていた人たちのこと、そしてこの物語が書かれた当時の「浦粕」という場所のことをもっと知りたいと思ったからだ。

貧しい漁師村の人情味に溢れつつも油断のならない住人達との交流や、豊かな自然の中でののんびりとした風景。ごったく屋と呼ばれる料理屋兼売春宿の逞しい女達の武勇伝や、蒸気船の船長のほろ苦い昔話。
どれもこれも実に味があり、現在の日本ではまず見ることの出来ない世界観をチラリと覗くことができる貴重な「思い出」だ。

会話の中から著者の声を徹底的に省き、「外部者」である自分の傍観者的立場を強く意識しながらも、自らの意志で(あるいは罠にはめられて)現地での出来事のひとつひとつを冷静に観察している筆さばきが実に印象的な作品だった。