« すばらしい新世界 - 池澤夏樹 | メイン | 日本海繁盛記 - 高田宏 »

栽培植物と農耕の起源 - 中尾佐助

地学・環境学


Title: 栽培植物と農耕の起源 (岩波新書 青版)
Author: 中尾 佐助
Price: ¥ 777
Publisher: 岩波書店
Published Date:

人工的に栽培された植物の変移と起源に迫ることで、人が植物を「食べる」ために行ってきた営みをクリアーに説明した本。1966年の本だが、まったく古さを感じさせない(実際のところ、内容的には古いのかも知れませんが)。食料という人間にとって最も切実なものの歴史が綴られた、実に素敵な本だ。

もともと野生していた植物を人間が試しに食べてみたことにはじまり、その植物をより安定して手に入れるように・・・という願いと実践が農業という営みだ。世界中のあちこちで、その風土に適した形で発展していった農業文化は、この本によれば4種類に分かれる。すなわち、

- 根栽農耕文化 (イモなどの澱粉に依存)
- 照葉樹林文化 (雑穀の栽培)
- サバンナ農耕文化 (豆などの栽培)
- 地中海農耕文化 (家畜を利用した雑穀の栽培)

の4つだ。
世界中のそれぞれの地域で沢山の食料を確保するための文化が花開いていったわけだけれど、あまりにも安易に食料が確保できてしまう地域では高度な文化が発生しなかった、という事実もなかなか興味深い。

また、これらの動きと平行して、灌漑が発明された地域では食料の大量収穫が可能になり、その結果国家の発生だったり大規模な戦争が行われるだけの余剰が生まれることになった。人間にとって、技術や洗練された文化は常に欲望の対象であり、ひとつの欲望が達せられると同時にまた新たな欲望が生まれるエンドレスゲームなのだ。