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すばらしい新世界 - 池澤夏樹

小説・詩集


Title: すばらしい新世界 (中公文庫)
Author: 池澤 夏樹
Price: ¥ 1,300
Publisher: 中央公論新社
Published Date:

会社の読書家K氏に「やまけい君はきっと気に入ると思うよ~」と勧められていた、池澤夏樹さんの小説に初めて手を伸ばしてみた。

もともと、池澤夏樹さんが朝日新聞に連載されていた「新世紀へようこそ」という文章を愛読していて、最近読んだ「ハワイイ紀行」も気に入っていたところで、なんとなく面白そうなタイトルの「すばらしい新世界」を選んでみたのだった・・・。

小説全体を通して語られる池澤夏樹さんの意見は、どこか地に足が着いていて物事を非常にフェアーに捉えているように思えて安心できる。もちろん、これは自分の考え方に似ているだけなのかもしれないけれど、国家にせよ文明にせよ宗教にせよ、エクストリームな意見に耳を傾けがちな現代において、こういう姿勢は常に大切なんじゃないかと思う。どことなく、なだいなださんのテイストに近いものを感じた。

物語自体もなかなか素敵で、風力発電の技師である登場人物とその家族、そして彼が風車を建てに行くネパールの山奥の人々がじわりじわりと描かれている。ところどころに著者の視点みたいなものが織り交ぜてあったり、Eメールでのやりとりで登場人物の言葉を紡いであったり・・・とかなり自由な感じに書かれている。

現実をしっかりと見据えながら、極度に悲観的になったりせず、ある程度の楽観主義を貫きながら精一杯生きていく・・・。そんな作者の精神性みたいなものを端々に感じることのできる、心地よい読書だった。