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2007年07月18日

イノベーション 悪意なき嘘 - 名和小太郎


Title: イノベーション 悪意なき嘘 (双書 時代のカルテ)
Author: 名和 小太郎
Price: ¥ 1,155
Publisher: 岩波書店
Published Date:

著者が関わってきた仕事を通して、現代社会を引っ張っている技術のあり方の変移について語った本。

特にソフトウェアに関する部分が面白くって、ハードウェア主体の世界で生きている人たちが「なんでソフトウェアの世界ってこうなの?」と素朴に感じるような疑問にうまく答えてくれているように思う。
いつも周辺部で新しい分野と向き合ってきた著者の経歴も興味深い。

2007年07月15日

日本海繁盛記 - 高田宏


Title: 日本海繁盛記 (岩波新書)
Author: 高田 宏
Price: ¥ 561
Publisher: 岩波書店
Published Date:

江戸時代から明治時代にかけて、大阪から瀬戸内海、そして日本海の荒海を駆け回った「北前船」に関するエッセイ集。
昔気質の船乗り達の自由奔放な精神が伝わってくる、優れた本だ。

「北前船」とは、それぞれの船が独自の資金で商売をやる船で、その多くが石川県の日本海よりの地域に本拠地を構えていた。春前に故郷を出て大阪に行って商材を積み、瀬戸内海、下関を抜けて日本海側から北海道に行き、また帰ってくる。
陸上交通や大規模な運送ビジネスが存在しなかった時代で、遠く離れた北海道からの物産(当時は主にニシンの〆粕)は船主に莫大な富をもたらし、才覚に満ちた優秀な船頭もまた多くの富を得ることができたのだそうだ。

この本を読んでいて、東インド会社があったころに、インドの名産(紅茶など)をイギリスに少しでも早く届けることを目的としていた商船のことを思った。恐らく、子どもの頃に読んだ「ニワトリ号一番のり」という本のことを思い出したのだろう。
積載量の大きい船で、天候などの予測不能な自体と闘いながら逞しくも己の才覚で商売を行っていた人たちの物語、という意味ではどこか似たような精神性が必要とされていたのかもしれない。
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2007年07月13日

栽培植物と農耕の起源 - 中尾佐助


Title: 栽培植物と農耕の起源 (岩波新書 青版)
Author: 中尾 佐助
Price: ¥ 777
Publisher: 岩波書店
Published Date:

人工的に栽培された植物の変移と起源に迫ることで、人が植物を「食べる」ために行ってきた営みをクリアーに説明した本。1966年の本だが、まったく古さを感じさせない(実際のところ、内容的には古いのかも知れませんが)。食料という人間にとって最も切実なものの歴史が綴られた、実に素敵な本だ。

もともと野生していた植物を人間が試しに食べてみたことにはじまり、その植物をより安定して手に入れるように・・・という願いと実践が農業という営みだ。世界中のあちこちで、その風土に適した形で発展していった農業文化は、この本によれば4種類に分かれる。すなわち、

- 根栽農耕文化 (イモなどの澱粉に依存)
- 照葉樹林文化 (雑穀の栽培)
- サバンナ農耕文化 (豆などの栽培)
- 地中海農耕文化 (家畜を利用した雑穀の栽培)

の4つだ。
世界中のそれぞれの地域で沢山の食料を確保するための文化が花開いていったわけだけれど、あまりにも安易に食料が確保できてしまう地域では高度な文化が発生しなかった、という事実もなかなか興味深い。

また、これらの動きと平行して、灌漑が発明された地域では食料の大量収穫が可能になり、その結果国家の発生だったり大規模な戦争が行われるだけの余剰が生まれることになった。人間にとって、技術や洗練された文化は常に欲望の対象であり、ひとつの欲望が達せられると同時にまた新たな欲望が生まれるエンドレスゲームなのだ。

2007年07月02日

すばらしい新世界 - 池澤夏樹


Title: すばらしい新世界 (中公文庫)
Author: 池澤 夏樹
Price: ¥ 1,300
Publisher: 中央公論新社
Published Date:

会社の読書家K氏に「やまけい君はきっと気に入ると思うよ~」と勧められていた、池澤夏樹さんの小説に初めて手を伸ばしてみた。

もともと、池澤夏樹さんが朝日新聞に連載されていた「新世紀へようこそ」という文章を愛読していて、最近読んだ「ハワイイ紀行」も気に入っていたところで、なんとなく面白そうなタイトルの「すばらしい新世界」を選んでみたのだった・・・。

小説全体を通して語られる池澤夏樹さんの意見は、どこか地に足が着いていて物事を非常にフェアーに捉えているように思えて安心できる。もちろん、これは自分の考え方に似ているだけなのかもしれないけれど、国家にせよ文明にせよ宗教にせよ、エクストリームな意見に耳を傾けがちな現代において、こういう姿勢は常に大切なんじゃないかと思う。どことなく、なだいなださんのテイストに近いものを感じた。

物語自体もなかなか素敵で、風力発電の技師である登場人物とその家族、そして彼が風車を建てに行くネパールの山奥の人々がじわりじわりと描かれている。ところどころに著者の視点みたいなものが織り交ぜてあったり、Eメールでのやりとりで登場人物の言葉を紡いであったり・・・とかなり自由な感じに書かれている。

現実をしっかりと見据えながら、極度に悲観的になったりせず、ある程度の楽観主義を貫きながら精一杯生きていく・・・。そんな作者の精神性みたいなものを端々に感じることのできる、心地よい読書だった。