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2007年01月27日

安全学 - 村上陽一郎


ヒトにとっての「安全」とは何か?という議論から始まり、「安全」ということが学問の対象として捉えようとして見事に失敗している本。

正直言って、「安全学」という学問が狭義な意味での学問として成立するとは思えないけれど、その過程でなされている議論の方が面白い。「安全」というお題で色々と面白いネタが書かれていて、それを読みながら色々考えることができる、というのがこの本の正しい読み方だと思う。
決してつまらない本ではない。

2007年01月24日

原子力と環境 - 中村政雄


(気をつけて使えば)クリーンな資源として利用可能な原子力の議論から始まって、今後の文明社会がどういう風になるべきか、というあたりまでが説かれた本。

- 石油はいつか枯渇する
- 火力発電の代わりとなりうる実用的な発電方式は、今のところ原子力以外に存在しない

・・・という背に腹は変えられない事情が存在する限り、科学力及びエンジニアリング能力で解決できるところまでは頑張ってみる価値はあるなぁ、と思う。どうせ今更「あとになるとみんなが困るから、質素な生活をしましょう」なんて言い出したところで、素直に不便な生活に甘んじるような殊勝な人は少ないだろうし。

本の最後のほうはほとんど原子力とか関係なくて、日本式の過密文化がいかに世界のイザコザを解決する可能性を持った素晴らしいものか・・・みたいなことが書かれている。
世界中のみんなが空気を読み始めたら・・・、それはそれで面白い世界になりそうだけれど、正直言って、そうなるには時間がかかりそうである。

2007年01月21日

ノーザンライツ - 星野道夫


アラスカという大地が持っている魅力と、その大地に魅せられた人たちの物語。

文庫本なのにカラー写真がふんだんに使われていて、一枚一枚の写真がアラスカの大地と、そこに住む人たちの表情を生き生きと映し出している。
相変わらず星野道夫さんの文章は独特の優しさに溢れている。

2007年01月19日

所有という神話―市場経済の倫理学 - 大庭 健


正直に白状すると、途中の議論では何回か全然フォローできなかった・・・。でも、まぁ、一応読破。

「倫理学」という、やたらと対象範囲の広い学問の視点から、現代の人間社会がどんどんサムい空間になっていく現象について色々と考察している。
個人個人の「ヒト」にとって、そもそも近代資本主義や経済学がどういう価値観をもたらし、どういう矛盾を生み出す可能性を持ったものか、というところから始まり、経済システムが成立するための前提のひとつである「所有」ということ、そして「権利」ということについて、より深い意見が述べられている。

さらに、「平等であること」とは本質的などういうことなのか?という厄介な問題に関しても著者の意見が色々と述べられている。

2007年01月18日

ダ・ヴィンチ・コード - ダン・ブラウン


よく書かれた小説。
扱っているネタが面白くて深く、スピーディーかつドラマチックな展開もうまい。一歩間違えたら安っぽい通俗小説に堕するところを「聖杯」というテーマをきちんと掘り下げて、大量の薀蓄を盛り込んだのが成功の秘訣と言うことができそうだ。
聖杯掘れば掘るほど面白いネタが出るので、手間を惜しまない作者にとってはこの手の小説を書くためにはうってつけの素材といえるかもしれない。

2007年01月14日

醜い日本の私 - 中島義道


相変わらず、日本の暮らしにくさや矛盾に対して、真正面から戦っている中島義道さんの本。

ヨーロッパ的社会の洗練された居心地のよさに気づいてしまうと、いつまでたっても日本の「世間型」社会の住みにくさやおかしさは目に付いてしまうものだ。僕が随分前から諦めて、逃避するようにつとめているあれやこれやについて、真摯な態度で正確なツッコミをいれ、とことんまで闘う彼の姿勢には見習うべきところが多い。

この人の本を始めて読んだのは「「対話」のない社会」だったろうか。「うるさい日本の私」からそこそこ時間が経って、氏本人の怒りと、怒る対象についての冷静な観察はますます冴えわたっている。もはや「うるさい」とか「醜い」とかそういう次元ではなくて、「日本の社会のこういうところがよくないからどうにかしようよ」的な主張の本になっている。

読みながら、自分の中で色々と考えることがあったので、メモとして残しておこう。

言葉に酔う
空間を切り取る
内側に閉じた言語空間
「世間の空気」を壊すことへの恐怖
「身内」と「身内以外」のはっきりとした区別
大人になること=本音と建前を正しく使い分けることができるようになること

2007年01月10日

エンデュアランス号漂流記 - アーネスト・シャクルトン


先日読んだ「エンデュアランス号漂流」と比べると、非常にあっさりした内容。

奇跡的に全員が無事に生還したとはいえ、南極横断を成功させることができなかったシャクルトンの気持ちが表れているのか、それとも時節柄ゆっくり記録をまとめる時間がなかったのか・・・、いずれにせよ、少し物足りない印象。

2007年01月09日

私は魔境に生きた - 島田覚夫


猛烈な体験が綴られた本。
著者は旧日本陸軍としてニューギニアに派遣され、周りを敵に囲まれた挙げ句に奥地での籠城作戦を決意し、戦後までの10年間をジャングルの中で過ごした。

まず何よりも、著者を含めた四人の日本人の強烈な「生きる姿勢」が伝わってくる。つい最近読んだ「エンデュアランス号漂流」に描かれている英国人探検家シャクルトン一行の狩猟民族的な「生きる姿勢」に比べ、ジャングルで農園を開拓していった彼らの「生きる姿勢」には、農耕民族的特性が強く現れている。生きていくためにあれこれ手を尽くし、コツコツと苦労を重ねながら生き延びることができた四人ともが農村の出身であった、というのは偶然の一致ではあるまい。

ひとつひとつのイベントが時系列でよく整理されて並んでいて、とても読みやすい。国民総動員という態勢の中で徴兵され、日本軍の再来を信じ続けながら暮らした彼らの心理的変化も非常に興味深い。米軍の襲撃に怯えながら日本軍が残した集積所の食料に依存する生活から、少しずつ自給自足の生活へと移行していく見事なまでの適応力も読み応えがある。とにかく、人間が生きていくためには「食う」ことが一番大事なのだな、と改めて思う。
ジャングルの中で生きる現地民の描写もとても面白い。

それにしても、10年間もの長い期間の記録をまともなメモや日記もなしによくここまで克明に再現できたものだと感心する。沢山の人たちの死や、自分自身の生と死をさまようような強烈な体験があったからこそ、このような体験を全て思い出すことができるのだろう。
人の運命や、生きること、努力すること、諦めないことについて色々と教えてくれる素晴らしい本。

2007年01月06日

エンデュアランス号漂流 - アルフレッド ランシング


素晴らしいノンフィクション。
アムンゼン・スコットによる南極探検に続き、第一次大戦勃発直後の1915年に南極横断を企てた英国人探検家シャクルトンと、その仲間達の記録。

シャクルトン隊が乗り込んだエンデュアランス号は、南極大陸に横断隊を送り出すことができないうちに、分厚い南極の氷の中に閉ざされてしまい、ついには氷によって船を失ってしまう。なすすべもなく漂流する氷の上で冬を越した彼らは、やがて流氷の間に抜け道の生まれる夏にボートに乗り換え、万が一のチャンスを掴むために南極の海に出て行く・・・。

まず、当時の装備の貧弱さに驚かされると同時に、どんな困難に対しても常に果敢なチャレンジを続けていくシャクルトン達の姿勢に本当に驚かされる。絶体絶命のピンチにおいても英国人式なジョークや皮肉を忘れず、必要とあれば感傷的な気分は捨てて犬ぞり用の犬もあっさり殺してしまう。
極限的な状況から全員の隊員が無事に帰還できたのは、沢山の小さなミスを犯しながら大事な局面で常にピンチを防いだ隊長シャクルトンの功績が多いように思われた。多くの希望者から優れた隊員をフィーリングで選んでいった彼のセンスも大したものだと思う。

シャクルトンが出した広告を引用しておこう:
MEN WANTED for Hazardous Journey. Small wages, bitter cold, long months of complete darkness, constant danger, safe return doubtful. Honor and recognition in case of success------Ernest Shackleton.

2007年01月03日

暴力の哲学 - 酒井隆史


途中からよくわからないタームや思想に惑わされて、延々と文字を追う読書になってしまった。それでも、前半で語られていた暴力論の歴史のようなものはとても興味深いし、難解だった後半でも時折「こういうことを言っているのかな?」と考えさせられるところがあったりして楽しめた。

キング牧師が言っていたという、「非暴力活動による緊張感の醸成」というのは彼の活動の核心をついていると思う。人が社会に影響を及ぼそうとするとき、誰しもが思い描くような直接的な方法よりも、ひとつの統一的かつ人の心を揺さぶる強力な「意志」を提示する行動こそが必要なのだと感じた。

暴力は非暴力。非暴力は暴力。
暴力とは、行為であり、人間の中に潜む「何か」なのだ。