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新編・単独行 - 加藤文太郎

山登り


戦前の時代には画期的だった、冬季の単独山行を数多く成し遂げた加藤文太郎さんの本。彼が残した記録や文章に、ちょっとした解説が付け加えられている。

文章から読むことができるのは、彼がとても真面目かつ実直で、それでいて内なる闘志を秘めた人間的な人であったのだなぁ、ということだ。他人に迷惑をかけることを嫌い、色々と努力を繰り返しながら単独で奥深い山へと分け入っていく著者の姿はなんともいえず頼りなく、それでいて力強い。

厳冬期の北アルプスに、満足な幕営用具も持たずに当時の貧弱な装備で登っていたことは、ただただ驚かされる。山での行動時間に12,3時間かけることは普通で、現在の教科書的な登山スタイルからあまりにもかけ離れているのだ。
山頂に名刺入れがあったり、案内人を連れて行かないと小屋が使えなかったり・・・と当時の山登りの風景が目に浮かぶような興味深い描写と、著者・加藤文太郎さんのナイーブで一途な山への憧れが見事に凝縮された面白い本だ。