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狼は帰らず - 佐瀬稔

山登り


これほど読んでいて胸がしめつけられる本はない。
この本は、戦中・戦後の大変な時期に幼少時代を過ごし、まるで取り憑かれたように山に、困難な壁に挑み、ついにはその壁の中で死んだ人の記録だ。

世渡りが下手で、自意識は人一倍強くて、純粋なところを隠そうともしない。自分も含めて、山に魅せられてクライミングをやる人の中にはこういった傾向を持った人が多いのではないかと思う。
自分の中に闘志を持ち続けることに快感を覚え、その闘志が途切れることのないよう、次から次へとチャレンジングな計画を考えては、一途にのめりこんでゆく・・・。
森田勝さん、という人の行動パターンはまさにこの典型で、不屈の闘志を生涯を通じて持ち続けたが故に最後はグランド・ジョラスの岸壁で帰らぬ人となる。

この本で触れられている緑山岳会の大野栄三郎さんこそは今自分が活動している会社の山岳部を作り、育て上げた人だ。人づてにその素晴らしい人柄や神業的な岩登りの技術を聞いていて、とても親近感を持って読むことができた。異色な山岳団体・緑山岳会の奇行も噂に聞いていたとおりで面白い。