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インカ帝国 - 泉靖一

歴史・考古学


よい本。
インカ以前の文明、プレインカと呼ばれるインカ帝国成立前の時代、そしてインカ帝国の興亡について包括的に描いていて、古さを全く感じさせない(1959年の本らしい)。

何よりも、インカ帝国が帝国として成立し、発展した過程が一番興味深い。ローマ帝国と同じように、インカ帝国はその地に人々が築き上げてきた文明・文化を統合し、まとめあげることによってより高度な文明としてアンデス一体を統治していたようだ。統治した地方をそのまま放置するのではなく、インカ帝国の一部としての恩恵を十分に与えることで領土をしっかりと広げていく精神性は、歴史上の帝国全ての共通のもののように感じる。

ヘブライニズム、ヘレニズム、インド、中国、そしてヨーロッパ文明・・・と沢山の文明が化学反応を起こしていた旧大陸とは異なり、巨大な帝国が完全な統治を行うことができた新大陸では文化も自然環境も驚くほど異なる世界が開けていたことに改めて驚かされる。
ピサロによるインカ帝国征服の描写は涙無しに読むことができない。