« 三位一体モデル - 中沢新一 | メイン | インカ帝国 - 泉靖一 »

刑吏の社会史 - 阿部謹也

歴史・考古学


中世ヨーロッパで最下級の賤民として蔑まれた刑吏に光を当てることで、中世ヨーロッパの民衆の姿に迫った本。
12,3世紀以前の都市・職業システムが確立する前には、共同体の秩序を回復するための「儀式」であった処刑が、都市の発生と職業システムによる排他的な社会、そして個人の発生と同時にそれを生業とする人間の手に委ねられるにつれて社会の「穢れ」となっていく過程を丹念に紐解こうとしている。

絞首、車裂き、斬首、水没、生き埋めに投石・・・。説明を読み進めるのもおぞましい処刑は、元来「悪」を犯した人間の「清め」であり「社旗秩序の回復」のための「儀式」だったのだ、と著者は言う。社会に属する人間が全員集まり、ある基準に基づいた呪術的な「死の儀式」を執り行うことが本来の「処刑」であり、受刑者の確実な死はその目的とするところではなかったという。

中世都市のようなアノニマスに近い(が、そこには人を区別するための構造が確実に存在する)社会空間で、誰もやりたがらない仕事をやらなければならなかった人たち。元来は司祭であり王の仕事であった「処刑」を共同体の成員の代わりとして努めた人たち。

中世ヨーロッパが辿った社会システムの変異を歴史的・人類学的視点から力強く描いた素晴らしい本だと思った。