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「世間」論序説 - 阿部謹也

経済学・社会学


中世の歴史家、阿部謹也さんによる「世間」論をまとめた本。

ヨーロッパで近代が成立していく過程で、現在の日本に根強く存在する「個人」の成立を許さない「世間」と同じような仕組みが解体されていったと思われる。
この本では、日本の「世間」を紹介するのと同時に、その解体がいかにして発生したのかを紐解こうとしている。

中世における「神判」や「タブー」、それに「性生活」や「恋愛の理想形」など、色々と興味深い事例が挙げられている。多くの内容をいっぺんに紹介しすぎている感が否めないし、この本だけを読んでヨーロッパでの「個人」の成立が分かるわけでもないので少し中途半端な気がしないこともない。だが、筆者の興味深い著作をちょこちょこと読むことができる、という意味では十分に価値のある本だ。

結局の所、ヨーロッパで個人が生まれたのは、都市化とキリスト教の広がりによる単一的な社会思想の伝達、そして告解等のシステムによる「個」の客観的な認識等、色々な条件が積み重なった末の出来事のように思われた。