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デス・ゾーン 8848M - アナトリ・ブクレーエフ

山登り


最近読んだ「空へ」という1996年に起きたエヴェレストでの遭難事件を別の人の視点から描いた本。

「空へ」の作者が参加していたパーティーと同じ日に山頂を目指したもうひとつのパーティーのガイドであるアナトリ・ブクレーエフさんとアメリカ人のウェストン・デウォルト氏にによる共著となっている。
実質上、デウォルト氏がアナトリさんやその他大勢の関係者に対して行ったインタビューや、アナトリさんが書いた文章の断片をまとめあげて1996年の出来事をうまくまとめた本、といったほうが正しいかもしれない。

全体的なノリとして、「空へ」では参加者を置いて一人だけ早く下山をしていたり、非協力的なガイドとして批判の対象となっていたアナトリさんが「ほんとのところはこうだったのですよ」と主張した本だと思うのだけれど、最終的に1996年の遭難がいかにして起きたか、という大きな絵は変わらないと思う。
実力不足のパーティーと、それを商売故に無理にでも世界の頂点へと引っ張り上げようとした二人のリーダーの悲劇、という構図しか見えてこないのだ。

「私はスポーツマンだ。できることなら達成したいと思う目標が、山にはいくつもある。なんらかの技術をもったすべての人々と同じように、私も自分の能力の限界に挑戦したいのだ。私個人の目標のために資金を調達するのに、ほかの道を見つけるのはもう遅すぎる。とはいえ、経験のない人々をこの世界につれてくるという仕事をするには、大きな条件がある。こう言うのは辛いが、私は「ガイド」と呼ばれるつもりはない。私は自分の役割をそれとは区別したい。他人から、その人の野心をとるか生命をとるかの恐ろしい選択をまかされなくてすむように。人は誰でも、自分で自分の生命の責任をもつべきだ。」

というアナトリさんが登山に関して特別ストイックな意見を持っているとは思わない。登山(特に8000mを越すような高所での)を行う上で自分で判断できないようなシチュエーションは存在すべきではないし、それはそもそも登山という行為の楽しみの半分以上を奪い去ってしまうものなのだ。