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アルプス登攀記 - エドワード・ウィンパー

山登り


イギリスのエドワード・ウィンパーが、1861年から1865年にかけて行ったアルプスの登山記録がまとめられた本。

科学主義がようやく一般にも浸透し始めていた時期で、「決して登ることができない山」「魔物が住む山」として現地のガイドにも恐れられていたマッターホルンへの彼の挑戦が主軸となっている。
現在の風光明媚な観光地というイメージとはかけ離れた当時のアルプス地方の雰囲気や、アルプスを横断する大トンネルの工事の模様、それに氷河が岩に及ぼす影響や、モレーン(堆石)がいかにして作られるかなどなど、イギリス人旅行者らしく雑多な知識を駆使してたくさんの興味深い意見を述べている。

結局ウィンパーは8度目の挑戦でようやくマッターホルンの頂上を極めることに成功するのだけれど、そこに行き着くまでの彼の執念深いとまで言える努力には驚かされる。
登山技術はもちろんのこと、ルート探索からよりよい交通の便を得るための峠越えや、優れたガイドとの出会いなどなど。
例によって、成功時の登攀自体は全く問題なくことが運ぶのだけれど、悲劇は下山の開始時に突然起きてしまうのだ・・・。

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ウィンパーの登山家としての業績は素晴らしいし、アルプスの開拓者として永遠に名を残すのだろう。と同時に、彼が持っていた登山家としての精神もきちんと語り続けられるべきだろう。

「劇は終わった。幕が降りようとしている。読者と別れる前に、登山の重要な教訓について、ひとことだけ述べて置きたい。遙か遠くに高い山が見える。ずいぶん遠くである。「不可能だ」という言葉が、ひとりでに出るかもしれない。しかし登山家は言うだろう。「不可能なことはない。道は遠いだろう。登るのも難しいだろう。その上に危険かもしれない。だが可能なのだ。まず登路を捜してみよう。それから登山家仲間の意見を聞いてみよう。彼らが同じよな山に、どのようにして登ったかを聞き、どのようにして危険を避けたかを学ぼう。」そのようにして、彼は山へ登っていく(下界の人びとはまだ眠っている)。」

登山という行為の素晴らしいところは、登山に含まれるスポーツ及び文化的行動としてトータルな力量が試される点だと思う。「何かを達成する」という人間が長らくやってきた行為のほとんど全てが登山には含まれていると思うし、何かを達成するためには立ち止まって考えることも必要だし、がむしゃらに突き進むことも必要なのだ。
「そこに山があるから」という言葉はあまりにも有名だけれど、ここには「登山」という行為の持つ意味が全て含まれているのだと感じた。