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アルゼンチンババア - よしもと ばなな

小説・詩集


相変わらず不思議なよしもとばななの世界。
物語も挿し絵もなんとも素敵で、感受性豊かな筆で彼女独特の世界を描いている。

「アルゼンチンババァ」ってまさか本当に「アルゼンチン」の「ババァ」とは、本を開けてみるまで分からなかった。
高校生で母を亡くした主人公と、父親とアルゼンチンババァの交流が物語の大筋なのだけれど、本当にさりげない文章で人生や物事の本質をチクチクと突いているように思う。
人が生きて、誰かを愛したり、何かに絶望したり、馬鹿なことをやらかしたりするのはどうしてなんだろう、というささやかな疑問に対してよしものばななさんが色々と考えたことが物語の中にひっそりと埋め込まれているのだ。

「お母さんの体からお母さんの魂がいなくなった時、私はその冷たい体を見て何回も思ったのだ。「ああ、お母さんはこれに乗って旅をしていたんだ」」

「どこまでも遠い異国に旅するのも、自分だけの遺跡を作ることも、きっと根っこのところでは同じ試みなのだと思う。ある時代から時代へと旅して、消えていく。ささやかな抵抗の試みを永遠の中に刻みつける。それだけのことなのだ。」

「「好きな人がいつまでも、死なないで、いつまでも今日が続いていてほしいって、そう思ったのよ」その祈りは永遠に人間が持つはかないものなの、そしてきっとはるか上のほうから見たらネックレスみたいにきらきらと輝いていて、神さえもうらやんでひきつけるほどの美しい光の粒なのよ、とユリさんは言った」