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散るぞ悲しき - 梯 久美子

伝記


硫黄島防衛の総司令官として、破滅的状況の中でアメリカを悩ませた栗林忠道さんのドキュメンタリー。

タイトルの「散るぞ悲しき」とは、栗林忠道さんの辞世の句「国の為重き務を果たし得で矢弾尽き果て散るぞ悲しき」から取られている。
彼の電信が受信されて記事として新聞に載った際、最後の部分は「散るぞ口惜し」と改変されていたのだという。

栗林忠道さんは軍人らしくない軍人で、部下や家族に対する気遣いを持ち、文章や絵をよく書き、さらに合理的な人であったらしい。アメリカでの留学経験から「アメリカは日本が一番戦ってはいけない国」と主張し、いざ日本本土が空襲の危険にさらされる瀬戸際となれば自ら最前線となる硫黄島で徹底的な抗戦をやった人・・・。

半藤一利さんの「ノモンハンの夏」なんかを読むと、いかに戦前・戦中の帝国陸・海軍が硬直的な組織でリアリティーを喪失していたか、ということが分かるけれど、栗林忠道さんが硫黄島でやったことは本当に「人」が「軍」という組織を使って最大級の働きをした稀有な例として考えることが出来る。
実際の戦闘に関する詳述はそこまでないけれど、この本で描かれているようなゲリラ戦はベトナム戦争でも実践されて大成果をあげたわけで、本当の意味で「抗戦する」ということを近代の戦争で初めて大掛かりに実践した人なのではないか?と思った。

2万人を超えるような人たちがひとつのちっぽけな島でバタバタと死んでいく姿は本当に馬鹿馬鹿しくて理解不能だけれど、優れた人間はどの時代にもいて、その手腕を発揮する機会にさえ恵まれれば本当にとてつもない結果を残すことが出来るのだな、と感じた。