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ファインマンさんベストエッセイ - リチャード・P・ファインマン

エッセイ・対談


立花隆の記事で、チャレンジャー号の事故の究明委員会に招集させられたファインマンが事実を追いかけた際の報告書がこの本に載っている・・・とのことで読んでみた。

彼が行った講演や、件の報告書、それに数々の興味深いインタビューが収められている。
「ご冗談でしょう、ファインマンさん」で彼の性格はよく分かっていたつもりなのだけれど、この本では彼の科学者としての顔がとても強調されているように感じられる。もちろん、自身の研究なんかに関する細かい話があるわけではないのだけれど、「科学すること」ということに関して、彼のひたむきなまでに真摯な姿勢がところどころからにじみ出ているのだ。

まず、彼が強調するのは「科学とは不確かさを見極めるものである」ということだと思う。科学に縁のない人が科学が絶対的な何かであるかのように感じていることを彼は大いに不満に思っているらしく、自身の研究成果に関しても多くの不確かさがあることを隠そうとしない。

ファインマンが科学的な思考方法を得るきっかけになったのは、どうやら彼の父親の影響らしい。
セールスマンだった彼の父は、独学で沢山の科学知識を身につけていて、幼いファインマンに世の中には沢山の物事の捉え方があることや、権威や肩書きがいかに馬鹿馬鹿しいものかを教えてくれたのだそうだ。

科学の本質とは「そこにあるものを解明すること」、ただこれだけにある、という彼の意見は本当にクリアーで、ついつい断定的に物事を見ようとしてしまう僕にとって貴重な戒めだ。
この辺りの議論はウィトゲンシュタインの論理哲学思考でも展開されたものに通じる気がするし、ギリシャで哲学(及び自然科学)が生まれた初期の混沌状態もこういったものであったのだろうと想像できる。

最近忘れかけていた「科学の心」を久しぶりに起こしてくれた気がした。ありがとう、ファインマンさん。