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民俗学の旅 - 宮本常一

宗教・人類学


日本中の村々を伝書鳩のように渡り飛んだ宮本常一さんの自伝的な文章。

「忘れられた日本人」を読んだときの強烈な印象がまだ残っている。
山口県の大島の貧農に生まれ、50を過ぎるまで定職にはつかずに旅をしつづけた人は、こんな人だったのだなぁ、と合点がいった。

まず、大島の中でも宮本さんが生まれた大字西方は、みなが一様に貧しい村で、祖父も父も非常に優れた特質を持っていたにも関わらず、死ぬまで寒村の貧農として生きた人たちであったらしい。
祖父は寡黙ながらも歌が上手で剣道も強くて生真面目な人で、父はフィジーに出稼ぎにいって失敗するものの、様々な見聞を身につけた人だったりして、そういう人からの強い影響を受けて宮本さんは育ったようだ。

「火事を起こしたら紋付で公の席にでられない」なんて話は、とてもリアリティーがあった。
渋沢敬三さんについては、宮本常一さんの文章によく出てきたのだけれど、この本を読んではじめてとんでもない人であることが分かった。

それにしても、明治、大正時代から生きてきた人は、みな「よさ」を求めるために骨を折った人が多い。国の「よさ」であったり社会の「よさ」であったりするけれど、現在みたいに混乱した価値基準がなかった時代だから、志を持った人が手を動かしやすい時代だったのではないだろうか、と思った。

死ぬまで「一介の百姓」を貫き通した宮本さんには、心底尊敬の念を感じる。この「ひたむきな真面目さ」こそが日本人の美徳なのかもしれない。