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エリック・ホッファー自伝 - エリック・ホッファー

伝記


しっとりして面白い本。

まず何よりもエリック・ホッファー自身の特異な体験がとても印象的。失明してから回復しても40歳までしか生きられないと思い続けて絶望を胸の中に抱えながらそれでも一生懸命生きた彼の半生。そして自殺未遂から立ち直って放浪者として色んなことを学びながら生きた残りの半生。
彼のユダヤ人に関する意見や、不適応者が新しい世界を作ること、それに弱者が強者に対して講じる対抗策こそが新しいものを作ってきた、などの洞察にはとても強く共感した。

「歴史は不可抗力によってではなくて、先例によって作られるのだ。」とか「私が知る歴史家の中に、過去が現在を照らすというよりも、現代が過去を照らすのだという事実を受け入れる者はいない。」なんて言葉は非常に示唆的。

本の副題であり、原題である「構想された真実」(Truth Imagined)とは、彼が愛着を持って読み続けた旧約聖書のことを指す。これはつまりユダヤ民族の持つ歴史がこの言葉で表させることを言っているのと同時に、我々人間の認識能力が「構想された真実」に基づいていることを言っているのではないか、と感じた。

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日本における「不適応者」とはつまるところ「オタク」のことだし、芸術家とはある意味においてみな「不適格者」として新しい可能性にチャレンジし続ける人たちのことを言うのだと思う。

ひとつのところにとどまっている限り、お金は稼げても新しい体験には巡り会えないし、考え方も固定されてしまう。それが1人の人間という存在にとってよいことなのだろうか?
エリック・ホッファーという人からは、立花隆やファインマン、それにチベットで会った放浪するオランダ人と同じような印象を感じた。