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聖書時代史 - 旧約篇 - 山我哲雄

歴史・考古学


よい本。
図書館をプラプラしながら「よい具合に聖書に書かれた事柄を歴史的事実と符合させようとしている本はないかなぁ・・・」と探していて偶然見つけた。

旧約篇ということで、アブラハムからヘロデ大王まで、かなり新しい情報を元に聖書の時代の背景と、聖書に書かれている事柄に対して解説を行っている。

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結局あの「カナンの地」という場所は、常にエジプトとメソポタミア、そして後年にはヘレニズム文化による圧迫を受け続けてきた大変な地域で、その場所にとどまるためには沢山の苦労が必要であった・・・、という理解が一番妥当なのだなぁ、と感じた。
基本的にユダヤの民が栄えることができたのは、近隣の巨大王国の影響力が何らかの事情によって衰えた時代に限ったことで、他の時代にはほとんどの場合にそれらの王国への忠誠を誓うことでどうにかこうにか生きながらえてきた・・・、という事情があるらしい。

歴史的事実として認識されているのは、紀元前1000年頃にダビデによって12部族から続く南王国と北王国が統合され、初めてヤハヴェの神を信ずる人々による統一王国が作られた(であろう)ことで、それ以降の聖書の記述と歴史の流れとはおおまかなところで一致しているようだ。

ヤハヴェ信仰は、ダビデによる統合前に12部族が共通の敵を前にした際の共通のアイデンティティーとして人々の間に根付いたものと考えられ、これは出エジプトを体験した人々によって伝えられた可能性が高いようだ。
ちょうど紀元前1353-1336にエジプト王の座にあったアメンホテプ四世は、それまで脈々と受け継がれてきたエジプトの神々の崇拝を廃止して一神教的性格を持つアトンへの崇拝を行う宗教改革を行ったようだ。しかもこの一神教への傾倒はアメンホテプ四世の代のみに限られ、それ以降の第19王朝では伝統的なエジプトの神々を崇拝する宗教体系へと回帰している。
この際にアトン信仰を行っていた人々が迫害され、それがアメンホテプ四世の代に無法地帯化していたカナンの地へと逃れ、その教えを伝えた可能性が高いようだ。
ロバート フェザーの「死海文書の謎を解く」という本でクムラン派に関する知識があったので、このあたりも面白く読めた。

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アブラハムからモーセまではフィクションに近く、その後に王制を取り入れたユダヤ王国の勃興と衰退の歴史、そしてバビロン補囚の時代を通してヤハヴェ信仰を貫き通した人たちが民族の記録として残したものが聖書である、という基本線はおおまかなところで正しいようだ。

巨大王国のさじ加減によって運命を左右された人たちが「いつかの栄光」を求めて強く結束するための書物、という意味においても、単純に民族に伝わった書物としても、やはり聖書が魅力溢れる書物であることに変わりがないことがよく分かった。

聖書への引用は少なく、物語の現れる聖書の該当箇所を指し示しているだけなので、それなりに聖書に精通していないと読むのは辛いと思う。

暇なときにでも新約篇でも読んでみることにしよう。