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2005年05月29日

改憲幻想論 - 佐柄木俊郎


「壊れてない車は修理するな」という副題の憲法改正に対する意見書。

この副題は近年オーストラリアであった憲法改正のための国民総選挙で、反対派が唱えたキャッチフレーズ。
たしかに憲法というもののあり方を考えたときに、現実に起きている問題に対処するのに憲法を修正する、という姿勢はあまりに短絡的だし楽観的すぎる。

誤解を恐れずに言ってしまえば、日本にはまだ民主主義が根付いていないと感じている。でも今の憲法は高らかに民主主義を謳っているし、近代国家の根本的なガイドラインとしてはまだほころびもみられていない。
だから「壊れてない車は修理するな」という言葉はとてもリアリティーがあるし、僕個人の意見としても無闇な憲法改正は日本をろくでもない方向に連れて行ってしまう嫌な予感がするのでやめておいたほうがよいと思った。

2005年05月24日

音楽未来形 - 増田 聡


あちこちで評判になってたので読んでみたのだけど、評判通り面白い。

音楽が楽譜、録音、という複製技術の普及によってどのような変化を遂げてきたかがしっかりと押さえられていて、細かいところへのフォローもしっかりしているので読みやすい。
音楽に格別興味のある人ならずとも、著作権やデジタル技術に興味のある人であればぐいぐいと引き込まれると思う。

録音技術発達後における音楽の扱われ方の変異に対する洞察がとにかく素晴らしい。
結局買わずに図書館で借りたのだけど、この内容なら買ってしまってもよかったな、と感じた。

2005年05月21日

イェルサレムのアイヒマン - ハンナ アーレント


元ナチの将校で、ヨーロッパ各地からのユダヤ人の輸送を通じて「最終的解決」に加担した、とされ逃亡先のアルゼンチンからイェルサレムへと拉致されて裁判にかけられたアイヒマンの記録。

ハンナ・アーレントの著書を読んだのはこれが初めてなのだけど、彼女の思考能力の高さがとにかく素晴らしい。あくまでジャーナリズムとしての客観性を保ち、事実をあくまで冷静な姿勢でつきとめようとしていく姿が非常に好ましい。

アイヒマンのような男は世界中に沢山いるような気がする。
自分の弱さを肯定も否定もできず、ただ流れるままに弱さが求める方向に行ってしまった男。
自分の人間としての弱さの一部も本の中に描かれているような気がして、空恐ろしい気持ちになるのと同時に、本の副題でもある「悪の陳腐さ」についても考えさせられた。

2005年05月13日

英国ユダヤ人 - 佐藤 唯行


大陸文化を直接的な影響を受けながらも、独自の文化を築いてきたイギリスでたくましく生きたユダヤ人たちの記録。

儀式殺人告発、そして国王の恣意税(しいぜい)、さらには1290のユダヤ人永久追放・・・。変わることのないユダヤ人のアイデンティティーと時代ごとに大きく揺れ動いたユダヤ人の環境をよく描いていると思う。

「Solomon & Ganoer」や「炎のランナー」で描かれた情景が思い起こされるのだけれど、さらにそれよりずっと以前の時代においてもユダヤ人たちが歩んだ苦難の歴史を知ることが出来たのがとても勉強になった。
国王からはお金を搾り取られ、平民からの蔑視の中でたくましく生きたユダヤ人たちの姿は本当に驚異的だった。

とても読みやすいしトピックも絞られているのでとてもよい読書体験になった。

2005年05月07日

素顔の白雪姫 - 小澤俊夫


グリム童話の研究者によるグリム童話の成り立ちと、その変移に関する解説。
著者は小沢健二のパパ。

アカデミックな香りがしつつも比較的親しみやすいグリム童話が題材である上に、ユング的解釈をすると~~とか大風呂敷を広げないのでとても素直にグリム兄弟が歩んだ道をたどることが出来る。

なんといってもいばら姫と白雪姫の版ごと比較が面白い。
人々の間で語り伝えられてきた「民話」から読み物としての普遍性が強まった「童話」へと変わっていく姿が目の前で展開されるのはとてもドラマチック。

アカデミックの匂いが強いので飽きやすい人には辛いとは思うのだけれど、グリム童話に興味があるのであればとても面白く読めると思った。

2005年05月04日

わたしが子どもだったころ - エーリヒ・ケストナー


なだいなだの本に出てきたので読んでみた。

ケストナーさんの名前はどことなく知っていたのだけど、彼が「点子ちゃんとアントン」の作者だったとは知らなかった。
「ふたりのロッテ」だとか「飛ぶ教室」、それに「エーミールと探偵たち」なんてのは小学生のころに読んだ記憶がある。

なだいなだの本での紹介としては、「資本主義社会が成立していく時代を子どもの視点で描いたもの」というノリで、たしかにそれはその通りで興味深いのだけれど、それ以上にこのケストナー一家とその身の回りの人たちのエピソード、そして何よりもこの才気煥発なケストナー少年の活躍がとてもとても面白い。

お母さんの盲目的に近いともいえる愛情と、それを大人しく受け止めようとするケストナー少年の気持ちの描写はとても心が暖かくなる。

2005年05月02日

神、この人間的なもの - なだいなだ


思いがけず、「権威と権力」、「民俗という名の宗教」との3部作的なものでうまく完結できた。

相変わらずのなだいなだ調で、昔の友達と宗教論を交わす、というお話。
これまで僕が考えてきたことに限りなく近い頃と言っているので驚くほどすんなりと読めた。

このあたりの考え方って、結構チョムスキーなんかとも通じるところがある。
まっとうに考えると結局たどり着くところは一緒なのだと思った。
やっぱりなだいなださんは素晴らしい。

2005年05月01日

権威と権力 - なだいなだ


相変わらずこの人は正論をいうことができる、今の日本において貴重な人だ。

社会のまとまり方が崩れてしまった今、フラフラとしている現代人がいかに権威や権力というものに対して無防備なままに生きているかをとてもよく説明していると思う。
相変わらずの対話形式で話の論点も掴みやすい。

人が科学に対して抱いている幻想や、現代においてもなお強い影響力を持つ宗教について日頃から考えていることがたくさん出てきて刺激的だった。