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2005年03月22日

民族という名の宗教 - なだいなだ


いつもどおり、分かりやすいなだいなださんの書き方で、昔の教え子と会話していく中で民族や国家というフィクションについての意見が述べられている。

とにかく分かりやすいのがいい。
へそ曲がりを自称するなだいなださんの言葉はとてもとても共感できるものがあるし、なんといっても彼は一般的な意味での「常識人」だとか「教養人」という枠に捉われていないのがいいところだと思う。
本当に小さな本だけど、中身に書いてあることにはとてもとても重い価値があった。

読みながらPalmでとったメモがあるので貼り付けておこう。

- 群とは繁殖を目的としたグループ
- 集団とは繁殖にとらわれず一般的な目的としたグループ
- ひとは集団化する事でひとになった
- ひとがうまく集団化できたのは、互いを大きく傷つけあうための武器が生身の体に備わっていなかったから
- ひとの集団が必要以上に大きくなったのは他の集団との競争の帰結
- まず血のタブーがあって、そこから言葉や文化による差別化が行われた
- 戦争とは平和への近道となることを建前として行われるものである
- 帝国の誕生と世界宗教の発生とは必然的なリンク
- イスラム教は言葉によって、儒教は礼によって、仏教は愛によって、キリスト教は契約によって人を繋げている。(これは個人的な解釈)
- 帝国の誕生に脅かされた小国家が結束して、民族や言葉の共通性を利用して合併を繰り返した結果が今の民族紛争に繋がっている
- 宗教や思想は、その内実はともかく人々に希望を与えてくれる存在である

2005年03月19日

司馬遼太郎の「かたち」 - 関川夏央


司馬遼太郎の人生最後の10年間に書き連ねられた「この国のかたち」を通して、彼のパーソナリティーを垣間見ることが出来る本。

筆まめだった彼は、文芸春秋に「この国のかたち」の原稿を送る際、必ず手紙を同封していたようで、その手紙の文面から見えてくる彼の思いがとても面白く感じられた。

死ぬのは怖くないけど老いるのは怖く、リアリズムが好きで正義が嫌いな彼は、徹底的な資料集めを行うことで歴史上の人物に限りなく近づいて、彼にとっての人物像を描いていくことですばらしい小説の数々を紡ぎだすことに成功する。

- 負け好きでないと人間いけないんだ
- 思想というものは、それ自体で完結し、現実とは何のかかわりももたないところに思想の栄光がある。

結局、司馬遼太郎という人は、自分に対してとても正直に生きた人だと感じた。

**

「この国のかたち」はいとおしむようにして、第5巻まで揃え、第4巻まで読んだ。
第6巻が揃ってないのだけれど、近いうちに揃えてゆっくり読んでみようと思った。

2005年03月17日

ベラ・チャスラフスカ - 最も美しく - 後藤正治


チェコ出身の体操選手、ベラ・チャスラフスカの生き様に迫ったノン・フィクション。

ちょっと冗長的なところが多いのだけれど、40年間続いた共産主義国家において、誇り高く「個人」として生きようとしたチャスラフスカの姿が描かれる前半がなかなかよい。

NHKの「共産主義の20世紀」みたいな特集で出てきたドゥプチェクや、地下放送を続けたアナウンサー、それに・・・、とチェコの人たちが生きた20世紀後半を1人の体操選手を通して映し出される。

もっとチャスラフスカ個人の考えなんかに迫って欲しかったのだけど、直接のインタビューも叶わなかったし情報ソースが不足していたのだろう、周りからの視点がメインになってしまっているのはいささか残念なところ。

2005年03月14日

アルザスの小さな鐘 - マリー・ルイーズ・ロート・ティンマーマン


面白い経緯で読むことになった本。

確か、「産業文明と民衆」か何かの本で、中世ヨーロッパにおいては、街の真ん中にある教会・聖堂の鐘の音によって色々なコミュニケーションがなされていた・・・、みたいなところがすごく面白くて、それに関して詳しく書かれた本を探していたら、全然関係ないこの本を見つけた。
で、amazon.comで買うのをためらっていたところが図書館で見つけたので借りてきた・・・、というわけ。

内容としては、フランスとドイツの国境に近いアルザス(フランス領)に住む一家が1942年、ナチス・ドイツに吸収された現地から「反ドイツ的」という理由でドイツの収容所へ連れて行かれて「ドイツ化」教育を受けるが、家族の強力な絆でその生活を乗り越えていく・・・、というもの。

基本的に優れた人たちの多い一家で、著者のマリー・ルイーズさんも連れ去られた16歳当時から素晴らしい観察力と洞察力を持っていて、為政者に屈する人たちの姿を痛烈に批判している。

アルザス地方の人たちが持つアイデンティティーや、あの時代に起こった悲劇の様子がとてもよく伝わってきた。

小沢昭一がめぐる寄席の世界 - 小沢昭一


少年時代に落語に強く影響を受けた著者が、その方面の著名人達と対談していく・・・、というもの。

この小沢昭一さんって人は「幕末太陽傳」に出演しているのを見て「面白い!!」と思った人だけど、言ってることも書いてることもべらぼうに面白い。曰く、

- 所詮、テレビは暇つぶしなんですな
- こんな面白いものが廃れるわけがない

落語の世界観はどこかとても遠くにあるもの・・・、とずっと思っていたのだけれど、思っていたよりも全然近いところにあるもののように感じられた。

気になった名前をいくつか・・・

- 森繁久禰
- 斉藤寅次郎 監督
- 新宿末広亭

2005年03月13日

聖書はどこから来たか - 久保田展弘


副題に「東洋からの思索」とある通り、日本の山岳信仰に親しんできた著者が実際にシナイ半島に行き、一神教が生まれたバックグラウンドに思いをはせる・・・、というノリの本。

全体的に感じるのは、当然だけど著者とキリスト教・ユダヤ教の距離。
我ながら、子供の頃から教会的空気の中で育ったので、マリア様がどうこうして・・・、なんて話は耳にたこができるほど聞いている。
普通の環境で育った日本の人にとって著者のような視点は当然なものなのだろうけれど、少なくとも僕にとっては不自然に感じた。

創世記から列王記伝、それにイザヤ書、そして新訳聖書・・・、と聖書の舞台を歩きながら著者が感じたあれやこれやを書いていて、面白いところは面白い。

たしかに、亜熱帯である日本と、ステップないしはサバンナであるシナイ半島を同列に語ることはできない。
また、複数の民俗がそれぞれ強力な武力とアイデンティティーを持って存在していた場所・・・となれば、全く違った考え方が生まれてくるのは当然とも言えると思う。

それでも、全ての宗教に共通な自然への畏怖と感謝、そしてその他にの細々したところでも共通項は多いのが興味深い。

ちょっと冗長的なところがあるけれど、著者と同じように色々と考えさせられる、という点ではとてもよい本だと思った。

2005年03月08日

愛に生きる - 鈴木鎮一


これはいい本!

教育者として一生懸命にやっている著者の心の声がとても印象的な文章として広がっている。

「才能は生まれつきではない」
この言葉は教育者ではない僕にとっても、とても心強い、そして言い訳を許してくれない強い力だ。

人と人の繋がりとして、音楽が愛を運ぶメディアとして機能しているみたいな意見にも共感できた。
意味のないようなものにこそ意味がある。
行動はいつだって起こせるようにしたいものだ。

2005年03月04日

阿Q正伝・狂人日記 - 魯迅


魯迅の代表作が収められた本。
図書館でなんとなく借りてみましたシリーズその4。

なんとなく借りてみましたというのは正確ではなくて、前々から読もう読もうと思ってて、まだ借りる余裕があったから借りてみたというほうが正しい。

いずれにせよ中国社会の病根を辛辣に表現していた作品ばかりで、まさにシュールここに極まれり、という感じ。
冒頭の自序に魯迅の子供の頃の苦々しい記憶が書かれているのだけど、まさに中国、という感じでぐいぐいと引き込まれた。

阿Q正伝も狂人日記も、社会の底辺のさらにその下、つまり一般的な社会からほとんど相手にされないアウトサイダーの視点から対峙している社会の問題点を追求している。

とても気に入ったのは、「故郷」の最後の部分。

“まどろみかけた私の眼に、海辺の広い緑の砂地がうかんでくる。その上の紺碧の空には、金色の丸い月がかかっている。思うに希望とは、もともとあるものともいえぬし、ないものともいえない。それは地上の道のようなものである。もともと地上には道はない。歩く人が多くなれば、それが道になるのだ”

中国てなもんや商社 - 谷崎光


母親に「あんた、これ読むと中国がよく分かるわよ」と言われて家に置いていかれたので読んでみた。

「中国が分かる」はあまりにおおげさだけど、確かに興味深い。
中国でビジネスをすることについてはいい話にも悪い話も世間には転がっているけれど、生身で最前線で闘った人が書く文章にはたしかに説得力がある。
おもしろおかしい文章ではあるのだけれど、ところどころに「うんうん」と唸らせるエッセンスが隠されている上に憎ましくも愛すべき中国人や、華僑として逞しく生きる先輩やのほほんとした日本人達・・・、と登場人物もいきいきと描かれている。

中国でビジネスを・・・なんて考えてる人は、現地へ行く前にこの本を読んでついていけるかどうかをまず考えてみてもよいのでは、と思う。
実は前から思っていたけど、自分は結構中国人タイプなので全然やっていける気がした・・・。

2005年03月03日

微生物を探る - 服部勉


図書館でなんとなく借りてみたシリーズその3。

ちょっと文章にバラつきがあるようにも見えるけれど、微生物がとても身近に感じることができるよい本。
目には大きく見える自然だけれど、本当に奇妙なまでに絶妙なバランスで成り立っているのだな、ということが伝わってきた。

自然界に存在している最近のうちの99%が分離・培養ができずにきちんとした形で研究されていない、というのは知らなかった。
レーウェンフックという(ほぼ)アマチュアな人によって始められた微生物の観察は、パストゥールやコッホ、そして現代においてもとても面白そうな学問であるな、と感じた。

個人的にはブラウン運動が出てきたのがとてもうれしかった。